第194話 地球と異世界、その行方
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「唯一つの心残りだった妹、陸羽を、トータに託すことが叶った。貴方と共に修羅道を行くことに迷いはない」
長髪の偉丈夫、呉陸喜の決心を聞いて、オウモはメガネにつけたナマズ髭を弾きながら、悪戯っぽく問いかける。
「陸喜クン、そうは言うがね。キミの親友、出雲クンだって年頃の子で、今や時代の寵児だ。もしも、彼がその気もないのに、……妹さんを弄んだ時はどうする?」
「その時は、責任を取るよう殴りにいくとも!」
陸喜は鬼神具である右の義腕、〝茨木童子の腕〟を抜き取って、中に仕込まれた銃器を見せつけた。
「おやおや、最近はショットガンマリッジもよくあると聞くが、カムロが女癖の悪さを伝えていないことを祈るばかりダネ」
「かの御仁は、クマ国きっての名君で誠実な男と聞いているが?」
陸喜が疑わしそうな視線を送ると、オウモは肩をすくめた。
「あんにゃろうも若い頃は色々とあったからネ。そもそも初代スサノオからして重婚していたのサ。と、すまない、隠れておくれヨ」
オウモと陸喜が応接室で語り合っている最中、不意に隣の区画がビカビカと光り始めた。
陸喜が黒い兜をかぶり応接室を出て、オウモが発光する鏡を隣室から持ってくると――。
鏡にバリバリと電撃が走り、牛を模した仮面を被る、小柄な足の見えない男が映った。
「……やってくれたな、オウモ!」
「カムロ、いきなりご挨拶だネ? 今回の事件ではろくに関われなかったブラック君主様が、事件解決の立役者となった〝前進同盟〟に、今更なんだい、ひょっとして負け惜しみかネ?」
「僕たちが関われなかったのは、他の誰でもない、お前達が中南米やアフリカに蒸気鎧の技術を流したからだろう。暴走した武装集団がクマ国まで突撃してきて、危うく死者が出るところだったんだぞ!」
地球人の中にも、元勇者パーティ〝C・H・O〟の黒山犬斗のように、異世界侵攻の野心を燃やす悪党がいた。
彼らは異界迷宮カクリヨや、クマ国でも超人的な力を得られるパワードスーツを盗んだことで強気になり……。
その技術がそもそもクマ国からもたされたものだと知らず、あるいは知っていたからこそ、欲深いテロリスト達は侵略を強行し、カムロらによって阻まれたようだ。
「そいつはお疲れ様。しかし、人聞きの悪いことを言わないでおくれヨ。流したのではなく、盗まれてしまったのサ」
「アカツキが調査したところ、お前のセキュリティは、〝これみよがしに裏口を開けて、鍵の壊れた金庫をテーブルに置く〟――が如しの、ザル警備だったそうだが?」
「だとしても、盗む方が悪いのさ」
「そんな理屈が通るものか! 地球側がクマ国に攻め寄せたらどうするつもりだ?」
カムロの弾劾に、オウモは木で鼻をくくったように応じた。
「おやおや現場も知らないブラック君主が、会議室で、まるで見てきたかのように言うものだネ?」
「遠く離れたクマ国の会議室が把握できる状況すら見えていないなら、その現場は視野狭窄だと言っている」
通路ブロックに隠れた陸喜が頭を抱える中、オウモとカムロは鏡越しに視線で火花を散らす。
「正気に戻れ、オウモ。今の地球は、アメリカが音頭を取っているが、不快に思っている国はいくらでもある。八岐大蛇とその眷属が侵略と汚染を続けるせいで、中南米とアフリカ大陸は火薬庫、ヨーロッパ諸国も流入する難民を抱えていて、どの国もいつ政権が転覆するかもわからん。お前は異世界間戦争を引き起こしたいのか?」
あとがき
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