第193話 漁夫の利を得たもの
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「ダーリン、すぐに調べろ。パワードスーツだけじゃない、出雲桃太の手袋、柳心紺のマント、祖平遠亜の鞄、黒い鎧男のバイク。きっと、すべてが新商品を売り込む為のデモンストレーションだ。あの戦いを、商売に利用しようとする奴がいるぞ!」
伊吹賈南の危惧は正しかった。
〝鋼騎士〟の鎧をより簡略化した蒸気鎧を筆頭に、自動防御機能がついたマント、投擲機能が付いた鞄、五トンのコンテナを輸送可能な蒸気機関アシスト付き巨大リヤカーといった、量産品が一気に広がりを見せる。
冒険者組合参加パーティ中、最大の経営規模を持ちながら壊滅した〝S・E・I 〟の販路を奪うかたちで急成長を遂げたのは――。
異世界クマ国の過激派〝前進同盟〟の新たな雇い主となった、六辻家が支配する〝SAINTS〟。
一葉朱蘭ら〝J・Y・O〟の残党を保護した七罪家が差配する〝K・A・N〟。
――二つの勇者パーティと密接な繋がりをもつ企業だった。
残念ながら、冒険者組合を正常化するという獅子央孝恵の戦略は破綻し、同時に、八岐大蛇の代行者たる伊吹賈南の計画も修正を余儀なくされた。
「なるほど、オウモさん。クマ国の代表が貴方を危惧し、私を捕まえようとしたのは、こういうことだったか。此度の戦いでもっとも実利を得たのは、〝前進同盟〟だ」
西暦二〇X二年七月七日、黒騎士こと呉陸喜は、クマ国が派遣した追っ手を振り切り、〝前進同盟〟の移動基地、ホバーベースで合流した。
桃太達がいないので、正体を隠す必要はなくなった。
死体から蘇った彼は、生命維持に必要ゆえに長時間鎧から離れることはできないが……。久方ぶりに兜を脱ぐと、髷のように結えていた長い黒髪がばさりと落ちて、爽快感でスッとした。
「陸喜クン、戻ってきてくれて嬉しいヨ。あんにゃろう……、カムロはクマ国を守る為に動けないからネ。地球上の人間が持つ情報伝達速度、そして人を動かす力を実感できないのサ。神鳴鬼ケラウノスが失われた今こそ、クマ国由来の商品を売りつける商機だと言うのに、少しは外の世界を勉強してもらわないと困るヨ」
オウモもまた紫の全身鎧を脱いで、作務衣に着替え、お気に入りのナマズ髭付きの鼻眼鏡をつけて陸喜を出迎えた。
「吾輩も、来月には寿・狆を名乗って地上を訪れるとしよう。それにしても、出雲クン達に正体を明かさなくて良かったのかい? てっきり向こうに残るものだと思っていたヨ」
「何をいうんだ? 生命維持装置の問題があるし、何よりオウモさんには蘇らせてもらった恩があるじゃないか!」
「フフフ、親友よりも吾輩を選んだっていうのかい? 女冥利に尽きるネ!」
オウモがナマズ髭をぴんぴんと弾きながら、茶化すように微笑みかけると……。
「うむ。今回、トータと肩を並べて戦って実感した。我が親友は、多くの頼れる仲間を得て、私がいなくても十分にやっていける。しかし、貴方の場合、誰かが暴走しないよう見張らないと大変なことになりそうだ。ならば、どちらを選ぶべきか火を見るよりも明らかだろう?」
陸喜は爽やかに歯を光らせて、そう言ってのけた。
「……信用のないことだネ。いや、逆にあると言うべきか。陸喜クン、せっかく命を拾ったというのに、もう地球に未練はないのかネ?」
「唯一つの心残りだった妹を、陸羽を、トータに託すことが叶った。貴方と共に修羅道を行くことに迷いはない」
あとがき
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