第192話 終戦と着火
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出雲桃太らが、神鳴鬼ケラウノスを退治したというニュースは、式鬼を利用した特急便で、地上へ伝えられ――。
西暦二〇X二年七月四日には、日本中の知るところとなった。
「良かったああっ! 胸のつかえがとれたんだ、な。幸保さん達、勇者パーティ〝N・A・G・A〟には、須口等テロリスト団体〝S・E・I 〟の容疑者を連れて帰ってもらうんだな……」
冒険者組合の代表室で執務中だった獅子央孝恵は、元妻である伊吹賈南からの連絡を得るや、ふくよかな体でステップを踏み、全身で喜びを表現した。
「桃太君達には、第六階層の〝シャクヤクの諸島〟で傷を癒してもらうんだな。派遣する救援部隊には、水着や嗜好品もいっぱい持って行って貰おう。ちょっと早い夏休みをめいっぱい楽しんでほしいんだな」
校長権限による臨時休暇は、〝S・E・I 〟と〝J・Y・O〟による冒険者組合乗っ取りと、クーデター政権樹立を阻むために、桃太達を利用した孝恵なりの詫びであり……。
八大勇者パーティの威光が地に落ちた今、桃太や焔学園二年一組が政争に巻き込まれないようにという気遣いでもあった。
「八闇様。出雲さんが神鳴鬼ケラウノスを討った今が、攻勢に出るチャンスです!」
「わかった、五馬殿。八闇家と、勇者パーティ〝TOKAI〟も全面的に協力する」
五馬碩志が率いる〝N・A・G・A〟と、八闇越斗が指揮する〝TOKAI〟は、この朗報を聞いて、〝S・E・I〟の勢力圏への一大攻勢を決断。
「冒険者組合代表室で、獅子央孝恵代表を守って戦ったミスターシノビの正体は、絶対に乂兄さんだ。そして、三毛猫の正体はきっと凛音さん。早く戦いを終わらせて、二人を見つけてみせる!」
「ミスターシノビだと。乂め、生きていたとは忌々しい。一〇年前はしくじったが、今度こそ殺してやる。クマ国へ攻め入る為にも、まずは四鳴家と、〝S・E・I 〟を潰す!」
五馬家と八闇家は、内心こそ正反対だったものの、神鳴鬼ケラウノスの支援を失った、地上と地下の〝S・E・I〟拠点をわずか一週間で制圧した。
そして、七月七日。両家の主力チームを率いた呉栄彦と東平孔偉は、第一階層に築かれた最後の砦を包囲した
「葛与さん。〝鋼騎士隊〟の隊長だった須口純怜と、うちの呉陸羽から助命嘆願の手紙が届いています」
「全ての責任は、死んだ四鳴啓介にある。彼女達の為にも、ここで降りちゃあくれないかい?」
「啓介の馬鹿は本当に死んだのか。ならば戦う意味はもうない。そして助命は不要だよ。くだらない意地でこれだけ大勢の人を巻き込み、血を流したんだ。今更、生き残ろうとは思わない」
啓介から代表を引き継いだ、四鳴葛与はそう告げて捕縛された。
おそらく死罪は免れないだろうが、戦いを終えた彼女は重い荷を下ろしたようにすっきりしていた。
四鳴家と〝S・E・I 〟は完全に解体され、かつて八大勇者パーティ随一を誇った莫大な財産は、すべてクーデター被害者への賠償と、神鳴鬼ケラウノス等、略奪した資産の補償にあてられた。
こうして、問題は終わったかに見えた。しかし、すぐに新たな火種が投入される。
桃太と啓介の、清水砦を舞台にした決戦。異界迷宮カクリヨの第五階層、〝妖精の湖畔〟の録画映像が、動画としてまとめられ、拡散されたのだ。
「これって、ハニーがやったの?」
獅子央孝恵から乱れた字の手紙を受け取って……。
「わ、妾じゃない! あ、あの黒いヤツか!」
伊吹賈南も、寝耳に水のニュースに、昆布のように艶のない黒髪を振り乱しててんてこまいとなった。
「ダーリン、すぐに調べろ。パワードスーツだけじゃない、出雲桃太の手袋、柳心紺のマント、祖平遠亜の鞄、黒いヤツのバイク。すべてが売り込みのデモンストレーションだ。あの戦いを、商売に利用しようとする奴がいるぞ!」
あとがき
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