第191話 新たな勇者に乾杯!
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清水砦の跡地で焚かれた巨大なかがり火の前で、皆が歌い踊る光景を、三毛猫姿の三縞凛音は眩しそうに見つめていた。
「ちょっと羨ましいわね」
「凛音、お手をどうぞ」
幼馴染である五馬乂が気を利かせたのか誘ってくれたものの、ヘビの姿では格好がつかない。
「乂。今の貴方は、文字通り、手も足も無いわよ。人間の姿に戻って、そこの陰で踊りましょ」
「グッドアイデア!」
五馬乂も三縞凛音も、日本国の戸籍上は死んだ人間だ。
それでも二人は生きて、桃太や紗雨達と同じ空の下で踊っていた。
「いよっし。それじゃあそろそろ、メインイベントをやっちゃいますか!」
こうして、宴もたけなわとなった夜半過ぎ。
リーゼントが雄々しい焔学園二年一組の生徒、林魚旋斧が、かがり火の前で大声をあげて、関中利雄や羅生正之らと共に、ジュースの入った紙コップを配り始めた。
「メインイベント? 何をやるの?」
「ちょっとした景気づけさ」
「これだけはやっておかないとね」
額に十字傷を刻まれた少年、出雲桃太が首を傾げる前で、勇者パーティ〝N・A・G・A〟の指揮官、幸保商二と、〝S・E・I 〟をまとめる須口純怜が、紙コップを掲げて皆がならう。
「我らの勇者、出雲桃太に乾杯! 助けてありがとう!!」
そう、一斉に叫んだ。
「俺が、勇者?」
桃太は、予想もしなかった光景に、雷に打たれたような衝撃を受けた。
「出雲君、キミのお陰で命を救われた。もし助けに来てくれなければ、我々〝N・A・G・A〟は、清水砦を枕に討ち死にしていただろう」
「私たちが言えたことではないけれど、啓介と〝S・E・I 〟暴走を止めてくれてありがとう。これ以上、神鳴鬼ケラウノスが地上の電気を止めていたら、どれだけの死者が出たかわからない」
桃太は幸保を、須口を、そして林魚を見た。
今では懐かしい混沌とした始業式の日に「同じ学校、同じクラスにはおれがいる」と言って、今日まで支えてくれたことを思い出す。
これは、決して桃太一人の勝利ではない。
「俺だけの力じゃない。祖平さんと柳さんが一緒に戦ってくれたから。紗雨ちゃんと遥花先生、二年一組の皆と踏ん張ってくれたから、黒騎士、乂、孝恵校長、が手助けしてくれたから。この勝利は皆で勝ち取ったもの。勇者と呼ばれるべきは、ここにいる全員だ」
桃太がそう告げた瞬間――。
「うわあああっ!」
歓声が上がり、桃太はもみくちゃにされながら胴上げされた。
「そうだ。それでいい、相棒。獅子央焔や、カムロのジイさんみたいなやり方も一つの方法だが、お前なら別のやり方で、未来に進めるさ」
「耳に痛いわね。でも、間違えたワタシだから、貴方の力になりたいと願う」
乂、凛音は名残惜しそうに胴上げの光景を眺めた後、壊れたバイクを残して何処かへと消えた。
「無敵の竜ではなく、脆い人間の肉体を体験しているからこそわかる。そうとも、出雲桃太、そして焔学園二年一組の仲間たち。妾の宿敵となるのは、お前達こそ相応しい」
最後に、生き残った桃太達の戦友にして、もう一人の八岐大蛇の首。
昆布のように艶のない黒髪の少女、伊吹賈南は、眼前の光景に見惚れながら、鬼術で映像を保存した。
あとがき
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