第188話 力を合わせて
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「ものを知らないクソガキどもめ、私を誰だと思っている。勇者だぞ、大蛇だぞ、なぜ私に従わない。なぜ私の思い通りにしないんだああっ」
ドラゴンゾンビとなった四鳴啓介は、障害と憎んだ少年、出雲桃太や、彼の顔に張り付くサメの仮面となった少女、建速紗雨ばかりでなく、アリのように見下していた冒険者見習い達が、恐れることなく自身へ弓を引くことに、説明しようもない怒りを覚えていた。
「貴方は勇者などではない。ただの人殺しの犯罪者だ!」
幸保商二ら勇者パーティ〝N・A・G・A〟の冒険者達も、満身創痍ながら戦線に復帰して腐肉の足に切り付け――。
「アンタには買収されたといえ、家を救われた恩があった。だから、付き合ってきたけれど、もう無理だ」
「貴方はここで倒れるべきだ」
救出された須口純怜など、啓介の部下であった〝S・E・I 〟の団員までもが、ドラゴンゾンビの鱗を槍や斧で削いでいる――。
「くそが、なぜだ、どうしてこうなった? 途中まで何もかもがうまくいっていたじゃないか!」
啓介は煩悶する。
八大勇者パーティのひとつ〝S・E・I 〟を率いる名門でありながら、彼が生まれた四鳴家は、獅子央焔から〝勇者の秘奥〟を授けられないなど、不当な地位に甘んじていた。
少なくとも、彼自身はそう思っていた。
だから、物知らずな出雲桃太という学生を騙して戦功をかすめとり――。
それを契機に日本政府が建設中だった神鳴鬼ケラウノスを奪うことにも成功――。
冒険者組合トップの座も内定し、薔薇色の未来が約束されていたはずだった――。
「私のいったい何が悪かった? 私はいったいどこで間違えた!?」
そう、薔薇色の未来が約束されたからこそ――。
啓介は目の上のタンコブであった、出雲桃太を始末したはずが、無能と侮った冒険者組合代表、獅子央孝恵に犯行をかぎつけられて指名手配され――。
〝S・E・I 〟の軍事力で日本政府に思い知らせてやるはずが、焔学園二年一組と〝N・A・G・A〟などという死に損ないに邪魔をされ――。
切り札である神鳴鬼ケラウノスと蛇髪鬼ゴルゴーンを投入して罪深さをわからせようとしたら、生きていた出雲桃太に破壊され――。
最強無比の存在、八岐大蛇、四の首となってなお、追い詰められている――。
「もうこんな世界はいらない。高貴なる私が使ってやったのに、どいつもこいつも手に入らない」
四鳴啓介は、もはや回復もままならず、ドラゴンゾンビの体を構成する腐肉をボトボトとこぼしながら、暗くなりつつある天を仰いで吠えた。
怒りに目が眩んだ暴竜は、ただ感情のままに千切れかけた四肢や、尻尾を振り回して、少しでも命を潰そうとする。
「戦闘機能選択、モード〝狩猟鬼〟。戦闘続行!」
「KISYAA!?」
しかし、黒騎士が銃で先んじて穿ち、手足や尻尾の付け根部分に大穴をあけた。
「クソッタレ! 殺してやる、殺してやるぞ!!」
「遠亜っち、石化ブレスを吐く気だよ。止めよう、〝剣牙〟。いっけえ!」
「ええ、心紺ちゃん、もう一人だって殺させるものか。咲け、胡蝶蘭!」
柳心紺、祖平遠亜も参戦して、ドラゴンゾンビを地雷で転ばせた上に、砂剣で喉首をズタズタにした。
「KISYAA!?」
「桃太くん、今よ!」
更に、矢上遥花が大きな胸を弾ませながら、服から伸ばした無数のリボンで縛り――。
「出雲、やっちまえ」
「このクーデターを終わらせて」
「彼を鬼から解放してくれ」
「お願い」
桃太と紗雨は、仲間達の願いを胸にただ走る。
「任せろ、啓介さんを止める」
「悲しいことは終わりサメエ」
決着はもうすぐだ。
あとがき
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