第186話 腐竜暴虐
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西暦二〇X二年六月三〇日の夕刻。
額に十字傷を刻まれた少年、出雲桃太と、彼の顔左半分に張り付くサメの仮面となった少女、建速紗雨は、黄昏の空の下で、全長五メートルに達するドラゴンゾンビの顔下半分をオーバーヘッドキックで吹き飛ばした。
「KISYAA!? それがどうした? 私は無敵、最強、無駄なことだ!」
しかし、ドラゴンゾンビの正体、テロリスト団体〝S・E・I 〟の代表、四鳴啓介は、半ば砕けた鬼面を前足で被り直しながら、傘の骨のような翼をはためかせ、死肉竜の四肢から無数の糸を伸ばして、蛇髪鬼ゴルゴーンや神鳴鬼ケラウノスの残骸を取り込み、再生する。
「無駄かどうかはやってみなければわからない」
「桃太おにーさんと紗雨のコンピプレー、目を剥いて見るサメエ!」
一方の桃太も、鬼の力に対抗する〝巫の力〟を発揮。
黒かった両の瞳を青く輝かせ、仮面の紗雨と力を合わせて湖の水をまきあげ、二メートルを超える巨大なプロペラ刃がついたドリルを作って突撃した。
「このグローブ、〝日緋色孔雀〟と、新技の〝螺子回転刃〟を応用すれば、こんなこともできる。ビッグドリルタイフーン!」
「サメッサメエ!! でっかいサメは強いんだサメエ」
桃太と紗雨はサメ映画のサメが暴れ回るかのように、プロペラの刃でドラゴンゾンビの前足後足を断ち、ドリルで尻尾を潰し、翼に大穴をあけて、石化した湖へと叩き落とす。
更には、仮面となった紗雨が翡翠の勾玉から白銀の光を発し、啓介が喰らおうとする蛇の死体や日緋色金の欠片を浄化する――。
「わ、私は至高の存在だぞ。お前たちのような劣等が私を妬むから、世界は正しくならないのだ!」
啓介は鬼面を震わせ、湖の水面に大波を立て、割れた石と水の中で呻いた。
彼は芋虫のようになった体から、黒く輝く糸を生み出し、自らのもげた四肢や折れた翼、千切れた尻尾を繋ぎ合わせて応急処置する。
「何度だってぶっ壊してやる!」
「狙った獲物は逃がさない。それがサメなんだサメエ」
桃太達の攻勢は止まらない。だからこそ、啓介はとんでもない手段で時間を稼ごうとした。
「どれだけ壊そうと無駄だ。私は選ばれしもの、何度だって蘇る。役立たずとも、私を守る盾となり、お前達の生命を寄越せ!」
啓介は石化した〝S・E・I 〟の団員達へ、黒い糸を伸ばして引き寄せ、桃太への人質を兼ねた盾にしたのだ。
その上、糸を通じて生命力まで奪ったらしく、ドラゴンゾンビの腐肉が再生すると同時に、啓介の元部下達の肉体が崩れ、粉々になって散った。
「もうやめろっ。盗んで、奪って、貴方は何がしたいんだ」
「い、命をなんだと思っているサメエ」
「キシシシシ、足を止めたな。敵であっても情けをかけようとする中途半端さ。そんなだから、貴様達は愚かだというんだ。私は違う。私には世界を思うがままにするために、革命を遂行する気高い志がある。こうして有象無象を喰らうことをどうしてためらうものか!」
桃太と紗雨の抗議に対し、啓介は腐り果てた爬虫類の口を動かして、悪臭をぶちまけながら、平然と言い放った。
あとがき
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