第185話 真なる切り札
185
「舞台蹂躙、役名変生――〝大蛇〟! キシシシ、今度こそ私は至高の存在となった!」
四鳴啓介の傲岸不遜な名乗りとは裏腹に……。
オレンジ色髪の青年が、新たに生まれ変わった姿は、角の生えた鬼面を被った頭と、歪んだ金属片と蛇の死体が寄せ集まった胴体を持つ、死臭漂うおぞましい四つ足のドラゴンだった。
全長五メートルに達するドラゴンゾンビが、折れたビニル傘を連想させる翼をはためかせながら飛翔すると、生ごみめいた悪臭が振り撒かれ、四本の足や尻尾からは蛇の死骸がウジ虫のようにボトボトとこぼれ落ちる。
「「げええええ」」
冒険者の中には、あまりに醜悪な光景に耐えきれず、嘔吐を催すものばかりか、気絶する者までいた。
「キシシシシ。八岐大蛇、第四の首となった私の美しさに感動したか!」
「「そんなわけあるか!」」
いつぞやの冒険者組合代表室における、五馬乂と〝鋼騎士〟のやりとりを思わせるツッコミが響いたが、笑う者は一人としていなかった。
「もう、〝S・E・I 〟も〝N・A・G・A〟も関係ない。生きとし生ける者を皆殺しにしてやる」
啓介が変化したドラゴンゾンビは、異界迷宮を滑空しながら、鬼面を被った口を大きく開き、湖をも石化させる毒の息を吐きつけたからだ。
「出雲桃太、シャクヤクの諸島のやり直しだな。草薙はもう使えず、空飛ぶバイクも壊れた。最後は私の勝利だ」
「啓介さん。アンタのおかけで勉強になったよ。切り札を切る時は、更に奥の手を用意すべきだってね」
「ここはサメ子に任せるさ」
「紗雨ちゃん、桃太君をお願いね」
額に十字傷を刻まれた少年、出雲桃太はプールから這い出ると、銀髪碧眼の少女、建速紗雨に向かって両手を差し出した。
「むふーっ。照れるサメエ……」
「さあ、紗雨ちゃん、やるぞお!」
桃太は上半身裸のまま、飛びついてきた巫女服姿の紗雨を抱きしめ、彼女が持つヒビの入った勾玉に力を込める。
「舞台登場、役名変化――〝行者〟。サメイクヨー!」
白銀の光がほとばしり、左手の勾玉が修復される。
同時に、桃太は白衣に鈴懸を羽織った法衣姿となり、顔の左半分には紗雨が変じたサメ顔の仮面を被っていた。
「そんなこけおどしが通じるかああ」
啓介が変貌したドラゴンゾンビが石化ブレスを吐きかけ、長い尻尾を叩きつけるも……。
「サメエエエドリル!」
桃太は左手に水の掘削器を作り上げ、噴水のような水柱を立てて空へ飛翔、石化ブレスを浄化の水で消失させながら、ドラゴンの尾に穴を開けて引きちぎる。
「KISYAA!?」
死体故に痛みはないのだろう。
啓介は、戦場となった清水砦の跡地に転がる、蛇の死体や歪んだ日緋色金を食らって即座に尻尾を再生。
お返しとばかりに、左右の前足を伸ばし、鋭い爪で切り込んでくる。
「桃太おにーさん、回避するサメエ」
「大丈夫。今の俺には日緋色孔雀がある。反射を上手く使えば、こうだっ。我流・直刀!」
桃太は緋色の手袋で迫り来る爪を受け止め、その衝撃を利用して、逆立ちの格好で、鬼の仮面を被ったドラゴンゾンビの頭部分までジャンプ。
右足に浄化の水をまといつつ、サッカーのオーバーヘッドキックのような形で蹴りつけ、顎を含む下半分を吹き飛ばした。
あとがき
お読みいただきありがとうございました。
ブックマークや励ましのコメント、お星様、いいねボタンなど、お気軽にいただけると幸いです(⌒▽⌒)