第182話 草薙、再び
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出雲桃太と五馬乂、三縞凛音の三人は、全長一〇メートルの鋼の鬼、神鳴鬼ケラウノスの右手首を蒸気バイクに仕込んだ杭打ち機で破壊した後、風の翼をはためかせて、後方から左肩に回り、こちらにも大穴を開けた。
「わ、私のケラウノスがああっ!!??」
「AAAAAA!?」
四鳴啓介が操る鋼の巨大鬼は、両腕を穿たれた衝撃のあまり湖の中に尻餅をついて、高々と水柱が立った。人質兼盾として使われていた呉陸羽の変じた蛇髪鬼ゴルゴーンもまた、転倒の衝撃で波にさらわれるように跳ね飛ばされる。
「よし、リウちゃんを引き剥がせた。今こそ幕引きを――」
されど桃太の意気込みとは裏腹に、彼が乗る蒸気バイクにも不具合が生じて、風の翼がぷつんと消える。
〝忍者〟という役名がもたらす〝鬼の力〟で車体を飛ばすのにも、遂に限界が来たのだろう。
「相棒、すまん。オレの方がガス欠になった」
「憑依解除。大丈夫だ、乂。決めてくるよ」
「グッドラック!」
桃太は黄金色の蛇となった乂と分離し、三毛猫姿の凛音に預けた。
そうしてボロボロになった青いジャケット風の鱗鎧を脱ぎ捨て、上半身裸のまま、一人で湖の側へと歩み寄る。
全長一〇メートルを超える巨大な鬼も、右拳を失い左腕に大きな裂傷を受けては、戦闘能力の低下は免れまい。なにより、もはや決着はついたも同然なのだから。
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「まだだ、出雲桃太。私は世界皇帝、新たな神だ。お前ごとき、寒門のガキに負けるはずがない。負けたのは有象無象の無能が足を引っ張ったからだ、我が〝鬼神具〟ヘカトンケイルの縄とケラウノスさえあれば、アメリカでもヨーロッパでも再起できる。私は作り出す、四鳴と〝S・E・I 〟を超える偉大な帝国を!」
桃太は呆れながらも、啓介の妄執を断つと決めた。
「観念しろ、アンタに先はない。三度目の正直だ。今度こそ草薙で終わらせる」
桃太は、湖の中でもがく神鳴鬼ケラウノスに向けて、ゆっくりと両の手をあげる。
「バカめ。そこからでは、生太刀・草薙も届くはずがない」
啓介は尻餅をついたまま、ケラウノスの足先からビカビカと光輝く糸を伸ばし、雷を放つ。
されど〝巫の力〟が発動し、両の瞳が青く染まった桃太は、死地にも動じることなく、標的を見据えていた。
「啓介さん、一つだけ礼を言っておく。シャクヤクの諸島でアンタ達に襲われたおかげで、衝撃を拡散させ、収束させるという新しいやり方に気づけた。螺子回転刃は、新技の叩き台だ」
桃太が衝撃波を生み出すと、左右の手に着けた赤い手袋が、あかかも孔雀の尾羽がごとく広がり、反射しながら拡散し収束して、あたかも天を衝く塔の如き〝衝撃の大太刀〟を作り上げる。
「いつもの草薙と違って、溜め時間が必要になるし、暴走させるから敵味方の識別もできなくなるけれど、威力と射程範囲も数倍に跳ね上がる。これが、俺の新技、〝生太刀・草薙、砲車雲〟だあっ」
額に十字傷を刻まれた少年、出雲桃太が両手から生み出した暴力的なまでの衝撃の渦は、自らに迫る神鳴鬼ケラウノスの雷光を飲み込み、鋼の肉体を引き裂いた――。
「こ、こんな悪夢っ、認めんぞおおっ!」
オレンジ髪の青年、啓介は泣き叫びながら、自らの〝鬼神具、百腕鬼の縄〟から伸ばした無数の糸を胸部コックピットから伸ばし、ケラウノスの穴が開いた胴体や、もげた手足といったパーツを引き寄せようと試みた。
「私を誰だと思っている? 古き世界を滅ぼす神にして、新たなる世界の皇帝、鬼勇者、四鳴啓介だぞ!」
ケラウノスは一瞬だけ元の姿を取り戻すも、桃太の草薙は、嵐の渦の中で撹拌を続ける。
「勇者のメッキは、とっくに剥がれている。悪鬼退散!」
「あ、ああああ、バカなああああっ!!??」
三六〇度方向から責め苛む衝撃に耐えきれず、全長一〇メートルに及ぶ鋼鉄巨鬼は、ミキサーにでもかけられたかのように、頭からつま先まで粉々になって崩壊した。
「むふー。桃太おにーさんの勝ちサメエ」
「お姉さん、信じていました」
「ふん、大した奴だ」
「勝った、勝ったぞおおおっ」
紗雨、遥花、賈南など、焔学園二年一組の生徒一同が勝鬨をあげて。
「いやったああ」
「新たな勇者、万歳っ」
「終わった、終わったんだ」
「ああ、やっと解放される」
石化の解けた、勇者パーティ〝N・A・G・A〟だけでなく、、テロリストに堕ちた〝S・E・I 〟の団員までが歓喜にむせいだ。
あとがき
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