第181話 パイルバンカー
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「乂、凛音さん。あの鬼、蛇髪鬼ゴルゴーンは、俺の親友の妹なんだ。どうにかして助け出したい」
「相棒。悪いが一度ぶっ飛ばして大人しくさせるしかないぞ」
「にゃん。にゃにゃにゃー(乂、桃太君、それだけじゃ足りない。啓介に操られているのだから、下手に助けようとしたら、さっきみたいに盾にされたり、人質に使われる可能性がある。だから、先に神鳴鬼ケラウノスを倒す必要があるわ)」
額に十字傷を刻まれた黒装束の少年、出雲桃太と、彼の右顔に蛇を模した仮面となって張り付く五馬乂、バイクのフロントポケットから顔を出す三毛猫姿の三縞凛音の三人は、呉陸羽を救出すべく作戦を練った。
「乂。強化した草薙という切り札もあるにはあるが、まず動きを止めないと当てられないんだ。ケラウノスの装甲は日緋色金製で、俺の衝撃波も、黒騎士の銃弾もまるで傷をつけられなかった。この風の翼は通じるだろうか?」
「ドントウォーリー! 神鳴鬼ケラウノスなんてデカブツを相手にするんだから、専用装備が必要だろ。オレもカムロに相談したんだ。どデカい大砲をつけてくれってな!」
乂の返答に、カムロはどんな武器を用意してくれたのだろう。と、桃太は心を踊らせたのだが――。
「ところがあのひねくれジジイ、〝当てられるかわからん、ロマン兵器なんて無用〟。と却下しやがった。でもその代わりに横付けしてくれたのが、外付け式の大型杭打ち機だ」
おそらくは、オウモが祖平遠亜に渡した、空間を歪ませる鞄のような細工で隠されていたのあろう。
ハンドル横のレバーを下ろすと、バイクの車体に匹敵する長さの緋色の杭を包んだ器具が、蒸気バイクの横に出現した。
「おおーっ、これも風の翼に負けず、いいじゃないか!」
「そうだろう、そうだろう!」
桃太と乂は、杭打ち機の無骨なデザインに惚れ惚れしていたが、凛音は不満そうだった。
「にゃにゃにゃ(排気を武器に使うわ、メインウェポンが杭打ち器だわ。この蒸気バイクこそ、まさにロマンの権化。近接戦闘しか出来ない、一か八かの特攻兵器じゃない)」
「ノープロブレム。オレと相棒と凛音がいるんだぜ。接近戦くらい茶飯前だ」
「そうだ、俺達三人ならやれる」
桃太と乂、凛音の乗った蒸気バイクはオルガンパイプ型の排気口から形成する暴風の翼で飛翔。
「AAAAAAA!?」
呉陸羽が変じた蛇髪鬼ゴルゴーンの攻撃を避けつつ……。
「キシシシシ、ぶっ殺してやる!」
四鳴啓介が操る神鳴鬼ケラウノスの右拳へとハンドルを切った。
「アンカーを射出、パイルバンカーを用意!」
桃太と、彼の右顔に張り付いた蛇のお面、乂は蒸気バイクの荷台下部から射出されたワイヤー付きの錨をケラウノスの右手首に巻きつけて、逃さぬように固定。
迫るケラウノスのパンチと帯電した糸の津波を紙一重で交わしつつ、バイクの右側面に取り付けた大型杭打ち機をケラウノスの手首に接触させた。
「相棒、俺の力を貸すぞ」
「損はさせないさ、ブローアップ!」
桃太が〝巫の力〟で、乂の操る風の翼を強化することで杭打ち機が作動し、後方に煙がもくもくとあがる。
バイクと同じ長さのある緋色の杭が、ケラウノスの手首に深々と撃ち込まれ、鋼の鬼の手に大きな穴を開けた。
「う、嘘だ。高純度の日緋色金の装甲が、こんな出来損ないに破られるだと?」
「もう一丁だ。こいつも持ってゆけっ」
「キスマイアス!」
「悪いけど、ワタシの瞳はケラウノスの脆い部分をもう見抜いているっ」
桃太と乂、凛音は全長一〇メートルの鋼の鬼、ケラウノスの右手首を蒸気バイクに仕込んだ杭打ち機で破壊した後、風の翼をはためかせて、後方から左肩に回り、こちらにも大穴を開けた。
「わ、私のケラウノスがああっ!!??」
あとがき
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