第180話 Here we go!
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「乂っ。凛音さん、来てくれたのか!」
「おうよ、相棒! 舞台登場、役名変化――〝忍者〟。ヒアウィゴー!」
蒸気バイクの荷台に座る出雲桃太の瞳が青く輝くや、運転する五馬乂がお面となって、顔の右半分に張り付き、二人は互いの位置を入れ替えた。
桃太の電撃で破れた薄ピンクの鎧下や割れた青い鱗鎧が、黒装束へ変化し、腰帯に差した短刀が太陽の如き光を発すると、乂がかぶっていた髑髏をあしらったヘルメットが日輪模様となって、頭にすっぽりとはまる。
「乂、このバイク、カッコいいなっ。それにしても、いつの間に運転できるようになったんだ?」
「クールだろう? 孝恵のおっさんの頼みでアルバイトした時に、必要だからって原付免許を取ったんだぜ。この蒸気バイクはおっさんに貰った二輪車を、カムロが改造したものだ。リミッター付きで、地上だと日本の法的排気量内に収まる優れものだぜ」
「にゃにゃー(二人とも話している場合じゃない。蛇髪鬼ゴルゴーンと、神鳴鬼ケラウノスが攻撃してくるわよ!)」
三毛猫姿の三縞凛音が、浄化の炎で石化を防ぎつつ、安全のためにバイクのフロントポケットに体を入れて忠告する。
彼女の忠告はもっともだったろう。
「ゴメンナサイッゴメンナサイッ、アアAA!」
呉陸羽が変じた、半人半獣の怪物が、頭から伸びる白蛇の群れを機関砲のように放ち――。
「キシシ。原動機付き自転車だと? そんなガラクタが、この神鳴鬼に通じるものか!」
四鳴啓介が操る全長一〇メートルの巨大な鋼鉄の鬼も、雷をまとった鋼鉄の右拳を大砲の如くに叩きつける――。
「オープンユアアイズっ。そいつは、どうかな? ただの原付と甘く見てもらっちゃ困る。オレのマシンはご機嫌だぜ。カムロが用意したとっておきを見せてやる!」
しかし、仮面となった乂は、桃太の〝巫の力〟を借りることで、蒸気バイクの後方左右一対に設置されたオルガンパイプ状の排気口から、視覚可能なほどの暴風の渦をほとばしらせる。
そうして、あたかも翼のようにはためかせ、蛇の群れを薙ぎ倒し、帯電する糸の弾幕をも引きちぎってみせた。
「これは、排気が風の翼になった?」
「サプライズ? オレだけじゃパワー不足で、長時間維持できるのは〝忍者〟の時、限定だかな。この風の翼を使えば、こいつの最高速度は理論上、音速に迫るし、空だって飛べるぜ!」
乂の宣言通りに、蒸気バイクは水辺を走りながら、空へと向かって駆け上ったではないか。
「おのれ出雲桃太! 法律違反だろうがっ」
「おいおい、ここは異界迷宮カクリヨ内部だぜ。日本国の法律が通じるものかよ、四鳴啓介!」
啓介は更なる雷をぶちまけるが、乂は自信満々で煽りながら、砲撃に満ちた空をジグザグ走行で駆け抜ける。
(オウモさんは、俺が使う〝巫の力〟は〝鬼の力を宿す機械〟と相性が悪いと言っていたけれど、乂が体の主導権を担当してくれるなら、操縦と力の行使にも支障は無いのか)
これは嬉しい発見だった。
ひょっとしたら、将来パワードスーツを動かせるかも知れないし、少なくとも今、ゴルゴーンが放つ蛇も空までは届かないようだ。
「乂、凛音さん。あの鬼、蛇髪鬼ゴルゴーンは、俺の親友の妹なんだ。どうにかして助け出したい」
「相棒。悪いが一度ぶっ飛ばして大人しくさせるしかないぞ」
「にゃん。にゃにゃにゃー(乂、桃太君、それだけじゃ足りない。啓介に操られているのだから、下手に助けようとしたら、さっきみたいに盾にされたり、人質に使われる可能性がある。だから、先に神鳴鬼ケラウノスを倒す必要があるわ)」
あとがき
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