第179話 ケラウノスとゴルゴーン
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「醜くおぞましいのは、四鳴啓介、お前の性根だ! 黒騎士、悪いがつきあってくれ。リウちゃんを助けに行きたい!」
「!!」
出雲桃太の無茶な誘いに、黒騎士は任せておけとばかりに親指を立て、蒸気バイクのエンジンを全開にして、オルガンパイプ型の排気口からもうもうと煙をなびかせながら、神鳴鬼ケラウノスの足元で泣き続ける陸羽に向かって疾走した。
「アニサマ、トータサン、ゴメンナサイ!」
「リウちゃん、謝ることはない。俺はキミのお兄さんに命を救われた。だから絶対にキミを助けてみせる」
「!!」
しかし、神鳴鬼ケラウノス、ひいては四鳴啓介が伸ばす光輝く糸に操られているのだろう。
陸羽が変じた蛇髪鬼ゴルゴーンは、桃太と黒騎士を拒絶し、頭から生えた白蛇を槍衾のように伸ばして迎撃した。
「ゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイ……」
白蛇の群れは湖の水面を裂き、岩盤を砕き、バイクを食らわんと鋭い牙を向ける。
「くっ」
「!?」
「キシシシ。やはり呉陸羽に気をとられたな。その甘さが命取りだ!」
桃太と黒騎士の迷いをついたか、あるいは最初から意図した罠だったのか、啓介は全長一〇メートルに及ぶ巨大鬼ケラウノスを操って、鋼鉄の拳で殴りつけてきた。
「OOOOOOO!!!」
されど桃太を背後に乗せた黒騎士は、とっさにバイクを傾けながら独楽のように回る強烈なアクセルターンを決めた。
彼は鉄拳の直撃を避けたばかりか、巨大な鬼の腕に車体を乗せて、胸のコックピットを目指して走り始めたのだ。
「ありがとう、黒騎士。啓介、今度こそ〝生太刀・草薙〟を決めてやる」
桃太もタイミングを合わせて右腕を掲げるも――。
「ゴルゴーン、私を守れ!」
「まさか?」
「!?」
ゴルゴーンが馬のような四つ足を生かして跳躍し、ケラウノスの腕を掴んで、盾となった。
桃太は陸羽を効果対象から除外して草薙を放とうとするもリーチが足りず、黒騎士も銃撃で陸羽を傷つけることを恐れて、手が伸びなかった。
「甘ちゃんなんだよ。世界皇帝の裁きを受けよ。これが神鳴る鬼の力だ」
その隙にケラウノスから伸びる無数の糸が伸びて、バイクの車体に絡みつかせ雷光を発する。
「うわあああっ」
黒騎士と蒸気バイクは、熱や衝撃を逃す日緋色金の装甲と、オウモ特製の対抗術式で守られていたものの――。
桃太の青いジャケットに似せた鱗鎧や鎖を編み込んだズボンにはそれほどの防御力はなく、大火傷を負って空高く吹っ飛ばされた。
「!?」
黒騎士はバイクで糸を振り切り、神鳴鬼ケラウノスの装甲こそ貫けないものの、桃太から注意を逸らすために銃弾を乱射して足止めを続け――。
「砂丘、出雲を受け止めて」
「出雲君、このレッドポーションを使って!」
まだ動ける戦友、柳心紺が砂粒型の飛行兵装で受け止め、祖平遠亜が回復薬を投げ渡してくれたことで、辛くも失血死は免れることができた。
しかし、呉陸羽とゴルゴーンがケラウノスに操られ、戦力も心許ない今、彼女を救い出す手段が見出せない。
「どうする? どうすればゴルゴーンからリウちゃんを救える? ここに相棒がいれば、凛音さんの時のようになんとかできるかも知れないのに」
桃太が紺色の砂粒と赤い薬液に包まれながら、落下する直前――。
「シャシャシャ! 相棒、嬉しいことを言ってくれるじゃないの」
「にゃんにゃー(乂。私が計測して観た未来の通りでしょっ。石化は浄化の炎で防ぐから、あのクレーターの手前へ行って!)」
後方から、もう一台の蒸気バイクが矢のようにすっ飛んできて、桃太を荷台で受け止めた。
「ああっ」
蒸気バイクの運転手は金ピカの髑髏でデコレーションされたフルフェイスヘルメットをかぶっていて、顔は見えなかったものの――。
背中に『漢道』と刺繍した革ジャンを素肌の上に羽織り、太腿の付け根から裾まで広いドカンめいたボトムを身につけ、足には金属輪で補強したライダーブーツというド派手なファッション。
加えて、胸元から顔を出す三毛猫とくれば間違うはずもない。
桃太の相棒、五馬乂が駆けつけたのだ。
「乂っ。凛音さん、来てくれたのか!」
「おうよ、相棒! 舞台登場、役名変化――〝忍者〟。ヒアウィゴー!」
あとがき
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