第178話 大切なものを守るために
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「キシシシ。呉陸羽よ。お前は最高の道具だ。醜くおぞましい哀れな怪物、〝蛇髪鬼〟よ。お前の力で、私は世界を手に入れる!」
オレンジ色髪の青年、四鳴啓介は、切り札たる蛇髪鬼ゴルゴーンを投入することで、自らが代表を務めるテロリスト団体〝S・E・I 〟の同胞諸共に、焔学園二年一組の研修生と、勇者パーティ〝N・A・G・A〟の冒険者達を石化させた。
「ちっ、しぶといネズミめ。まだ動く者がいるか?」
しかし、戦場にはまだ僅かな例外がいた。
「柳とメガネ娘、絶対にあっちを見るんじゃないよ!」
啓介の操り糸から解放された、須口純怜ら、〝鋼騎士〟の一部が身を挺して壁となったことで――。
瓶底メガネをかけた少女、祖平遠亜、サイドポニーの目立つ少女、柳心紺、琥珀色の八足虎ブンオーの二人と一匹は、辛くも直視を避けていた。
「純怜さん、そんなっ」
「心紺ちゃん。すぐにポーションで治療するから、その間〝砂丘〟で守って!」
「ごめん、右目が見えなくて上手く使えない。遠亜っちも、左手が石になってるじゃないっ。ブンオーは足をやられたの?」
「BUNOO!?」
しかしながら、彼女達も体の一部が石化。即座にレッドポーションで治療を始めたものの、遠距離戦はともかく白兵戦は困難となった。
「サメメエ、桃太おにーさん。皆の呪いは紗雨が祓うサメエ」
「桃太くん、生徒達のことはお姉さんに任せてください」
その一方、クマ国の巫女たる銀髪碧眼の少女、建速紗雨。栗色の髪に〝鬼神具〟の一つである赤いリボン、〝夜叉の羽衣〟をつけた矢上遥花。二人は強い浄化や回復の力を持っているからか、無事だった。
「アハハ、妾には効かんのおっ。救助を手伝ってやるから、あとでジュースを奢るがいい」
加えて、昆布のように艶のない黒髪の少女、伊吹賈南も、八岐大蛇の代理人が正体だけあって、平然としていた。
「紗雨ちゃん、遥花先生、賈南さん。皆をお願い。俺達は、ゴルゴーンとケラウノスを抑える」
そして最後の二人、出雲桃太と黒騎士は、誰もが目を背ける恐ろしい怪物の姿を、食い入るように見つめた。
「アニサマ、トータサン、ゴメンナサイ、ゴメンナサイ……」
「アニサマ、トータさんって。この声は、まさか、リウちゃんかっ」
「!?!?」
蛇髪鬼ゴルゴーンは、異名の通りに髪は白い蛇となってうねり、額には捻じ曲がった角が生え、瞳は熟れた鬼灯ように赤く濁り、上半身は猪のようにけむくじゃら。
神鳴鬼ケラウノスから伸びる糸が絡まった背には、折れた白い翼が生えて、下半身は青銅の鱗に覆われた馬という半人半獣の怪物だった。
しかし、ほんのわずか、横顔に変身前の人物。桃太の親友、呉陸喜の妹であある呉陸羽の面影が見えた。
「キシシシシ。出雲桃太よ。抗うんじゃない。蛇髪鬼ゴルゴーンの醜くおぞましい姿を見たものは、石となるのだ」
蛇髪鬼ゴルゴーンには、モデルとなった神話の通りに人々の恐怖を駆り立て、石化する呪いがあるのだろう。
焔学園二年一組も、勇者パーティ〝N・A・G・A〟も、テロリスト団体〝S・E・I 〟も、九割以上が石像となってしまった。
「リウちゃんは、お兄さん想いのいい子だ。寝言は寝てから言え!」
「!!」
しかし、本当のリウを知る桃太と黒騎士は、呪いを気合いで跳ね除けた。
ギリシャ神話の原典にのっとるなら、怪物の首を刎ねるのが正しい解決法だろう。
だが、二人にとって彼女は大切な女の子だ。
「醜くおぞましいのは、四鳴啓介、お前の性根だ! 黒騎士、悪いがつきあってくれ。リウちゃんを助けに行きたい!」
「!!」
桃太の無茶な誘いに、黒騎士は任せておけとばかりに親指を立て、蒸気バイクのエンジンを全開にして、オルガンパイプ型の排気口からもうもうと煙をなびかせながら、神鳴鬼ケラウノスの足元で泣き続ける陸羽に向かって疾走した。
あとがき
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