第176話 形勢逆転
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西暦二〇X二年六月三〇日午後。
焔学園二年一組が協力する、勇者パーティ〝N・A・G・A〟と、テロリスト団体〝S・E・I 〟による――。
異界迷宮カクリヨ第五階層〝妖精の湖畔〟を巡る闘いは、新たな局面を迎えていた。
額に十字傷を刻まれた少年、出雲桃太は、衝撃を反射する緋色の手袋〝日緋色孔雀〟で新たな技を編み出し――。
謎の黒騎士は、身につけたフルプレートアーマー型の蒸気鎧とハンドルを握る蒸気バイクで、神業めいたドライビングを披露――。
サイドポニーの目立つ少女、柳心紺は、遠隔操作兵器〝砂丘〟で、攻防一体の活躍を見せ――。
瓶底メガネをかけた少女、祖平遠亜は胡蝶蘭と名付けられた鞄から、地雷や爆導索を発射する――。
先の戦いで〝S・E・I〟に断崖絶壁から落とされ、行方不明になっていた桃太を含む、四人の少年少女達が新たな武器と必殺技をひっさげて駆けつけたことで、両軍の形勢は一気に逆転したのだ。
「くそっくそっ、くそお。航空戦力は全滅、陸戦部隊も半壊してしまった。こうなれば北の軍勢を回すしかない」
〝S・E・I 〟の代表である四鳴啓介は、全長一〇メートルの巨大な鬼神鳴鬼ケラウノスに乗ったまま、自ら破壊した清水砦の本丸から光輝く糸を放ち、部下の冒険者達を操ろうとした。
すなわち戦力が覚束なくなった南側戦場を支えるために、建速紗雨ら焔学園二年一組と、幸保商二ら勇者パーティ〝N・A・G・A〟を追撃中の北側部隊から、戦力を補填しようとしたのだ。しかし。
「おれの伯父は、〝G・O〟の伝説的冒険者、呉陸項とモンスター退治を争い、勝った男だぞ。おれも伯父に負けないよう、ここで伝説を作るんだよ」
「ぼくの父も、半年前、〝C・H・O〟に襲われた民間人を逃がすために命をかけた。ぼくも父に恥じない男になってみせる」
かつては、犬猿の仲だった八大勇者パーティ縁のグループと、一般家庭出身のグループが協力して、〝S・E・I 〟へ反撃を開始。
関中が指揮する遊撃部隊が物理攻撃で敵部隊の足をとめ、羅生がまとめた鬼術士部隊が炎の弾丸や氷の矢で弱点の首や腹のパーツを破壊する、息のあったコンビネーションを発揮した――。
「サメー、やっちゃえサメエエ。紗雨も笛で応援するサメエ」
そして、背を負傷していた銀髪碧眼の少女、建速紗雨も復帰して強化と浄化の笛を奏で――。
「ぐぬぬ、妾がまるで目立てないだと。祖平に出番を奪われるばかりではないぞー」
昆布のように艶のない黒髪の少女、伊吹賈南が壊れた装備から、槍を埋めた足罠や、釘を撒き散らす爆弾といったトラップをつくり――。
「桃太君が戻ってきた以上、ここで戦いを終わらせます」
栗色の髪の女性教師、矢上遥花はフリルドレスから突き出す豊かな胸を弾ませながら、服を飾る無数のリボンを伸ばして〝S・E・I〟の団員を絡め取って昏倒させる――。
焔学園二年一組が猛然と攻勢に出たことで、北側の戦況も一気に裏返った。
「私の軍勢が、こんな連中に敗北するというのか?」
戦闘開始時には、一〇〇〇体以上あった啓介が支配する軍勢も、今や八割以上が戦闘不能となったいた。
「戦闘機能選択、モード〝一目鬼〟。戦闘続行!」
「形勢逆転だぞ、四鳴啓介」
桃太と黒騎士は総崩れとなった〝S・E・I〟の軍勢を切り開きながら、神鳴鬼ケラウノスに向かってバイクを走らせる。
「出雲桃太。わ、私はもはや手段を選ばない。自衛隊相手に使う予定だった、とっておきの切り札を見せてやる。お前達が悪いんだ、お前達が私にアレを使わせるのだ。呉陸羽、いや蛇髪鬼ゴルゴーン、やれええっ。お前の力で、この戦場にいるすべてを石に変えろっ」
あとがき
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