第173話 舞台登場、砂丘騎士!
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額に十字傷を刻まれた少年、出雲桃太は、超絶的なバイク運転を披露した黒騎士との連携で、オレンジ色髪のテロリストの首魁、四鳴啓介が操る〝S・E・I 〟の航空戦力、〝錐嘴鳥〟三〇〇体を撃破した。
しかし、啓介は桃太の新技が接近戦に弱いと見抜き、灰色の蒸気鎧を身につけた冒険者〝鋼騎士〟と、赤い八本足の式鬼〝八足虎〟の大軍を呼び寄せてすり潰そうとする。
その出鼻を挫き、包囲網から脱出する手助けをしたのは――。
「柳さん、祖平さん、間に合ったか」
「ちいいっ、裏切り者とメガネ女かあっ!?」
異界迷宮カクリヨの〝第六階層、シャクヤクの諸島〟で、啓介と交戦したもう二人の少女だった。
「出雲ったら、オウモさんが露払いしてくれている途中なのに突っ走っちゃってさ。黒騎士さんのバイクも速すぎるよ。でも、ここからはアタシ達もいいところ見せちゃうよ!」
サイドポニーの目立つ少女、柳心紺は、〝S・E・I 〟が頼みとする主力部隊〝鋼騎士〟の魔手から逃れ、一撃離脱戦法で交戦中の、桃太と黒騎士に向かって手を振った。
彼女も元は〝鋼騎士〟の一員であり、オルガンパイプ型の排気口が生えた同型の鎧を着用していたが、オウモの手助けで改造し、より女性的で丸みを帯びたデザインに変更。
灰色だった装甲と戦闘服のカラーを濃紺に塗り直し、同色のマントを羽織っている。
「心紺ちゃんの言うとおり。真打ちは遅れて登場するもの。バッチリ決めよう」
心紺の背後に腰掛けた、分厚い瓶底メガネをかけた少女、祖平遠亜もまた、白い蘭の花が彫られたスーツケースを手に、宣戦布告とばかりに神鳴鬼ケラウノスに向かって声をあげた。
「BUNOOO!」
そして、心紺と遠亜の二人を乗せた〝式鬼〟――。
体毛を赤色から琥珀色に変えて、身体の各所を守る鎖帷子を身につけ、色鮮やかな紺布のドレスで飾った八足虎のブンオーも、自分を忘れるなとばかりに声高らかに吼える。
「舞台登場 役名宣言――〝砂丘騎士〟! 遠亜っち、ブンオー、あのバカボンボン、四鳴啓介をぶっ飛ばすよ」
「心紺ちゃんと遠亜ちゃんもカッコいいサメー」
「柳さんと祖平さんも無事で良かったっ」
「我々も学生達に負けてはいられないっ」
心紺の名乗りは、焔学園二年一組の生徒教員と、勇者パーティ〝N・A・G・A〟の冒険者達を元気づけた。
しかし、四鳴啓介は動揺こそしたものの、増援がわずか二人だけだったことに慢心したらしい。
「キシシシ。先日から奇妙な集団と交戦したという報告があがっていたが、蓋を開ければ僅か四人ではないか。裏切り者め、身の程を知るがいい。鎧のデザインを変えたようだが、なにが〝砂丘騎士〟だ? ここは水辺だ!」
「バカボンボンが知るはずもないだろうけど、〝砂丘〟っていうのは武装の名前なのさ。いっくよー」
心紺はブンオーに騎乗したまま、湖に近い浅瀬を駆けつつ、上半身を前のめりに倒した。すると、彼女が鎧の上にまとった濃紺のマントが膨らんで、あたかも砂丘を形成するかのように波打ちながら広がった。
「な、なんだこれは、見たこともない兵器だ。だが、四鳴家と〝S・E・I 〟開発した〝鋼騎士〟部隊は、一般冒険者の一〇倍以上の力を発揮する。一葉家から奪った〝式鬼〟、八足虎と組ませれば、まさに鬼に金棒。小細工など通じるものか!」
「どっちが小細工か、その目で確かめなよ。アタシは純怜さん達を、アンタのようなバカボンボンから解放するんだ。戦闘機能選択、モード〝剣牙〟。戦闘続行!」
濃紺の砂丘は無数の砂で構成された剣に姿を変えて、出雲桃太と黒騎士を包囲せんとする、灰色鎧の冒険者と赤い八本足の元へ降り注いだ。
「な、なんだとおお!?」
「AAAAAAAA!?」
降り注ぐ砂剣の嵐が、〝鋼騎士〟が着込んだ蒸気機関を、そして弱点である首元や腹部を破壊し、啓介から伸びる操りの糸を断ち切った。
あとがき
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