第171話 カシナート
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「エセ勇者と、〝C・H・O〟の死に損ないめ、なぶり殺しにしてやるぞ」
「黒騎士。大丈夫だ、俺たちは負けない!」
「!!」
額に十字傷を刻まれた少年、出雲桃太と、蒸気二輪車を操縦する黒騎士は――
清水砦を破壊して占拠したテロリスト団体〝S・E・I 〟の代表、四鳴啓介が操る全長一〇メートルの巨大な鋼鉄の鬼ケラウノスと、〝鋼騎士〟や、天を舞う怪鳥、地を這う八本足の虎といった〝式鬼〟、併せて一〇〇〇体もの軍勢に対し、真っ向から突撃した。
「寒門の痴れ者め。貴様ら如きには、神鳴鬼ケラウノスを使うまでもない」
神鳴鬼ケラウノスの胸部コックピットに座したオレンジ色髪の青年、四鳴啓介は、清水砦の屋敷跡に陣取ったまま、〝鬼神具・百腕鬼の縄〟が生み出す光輝く糸を使い、無数の赤い紙で形作られた鳥の化け物で空の一角を埋め尽くした。
「〝錐嘴鳥〟の爆撃で、髪一本残さず消してやる。なあに、日本政府や冒険者組合の有象無象も、じきに後を追うことだろうよ!」
啓介が操る、槍めいた長いくちばしをもつ怪鳥の式鬼、〝錐嘴鳥〟は、羽根を構成する呪符を爆弾に変えて、雨あられと爆撃を開始する。
「桃太おにーさん、鎧の人、逃げてサメエエ!」
「桃太くんっ。こちらに来てはいけませんっ!」
背を負傷した銀髪碧眼の少女、建速紗雨と、彼女を手当てする栗色髪の女教師、矢上遥花が悲鳴をあげる。
錐嘴鳥の無慈悲な爆撃の結果、青かった湖畔は今や真っ赤な火の海だ。桃太と黒騎士の乗ったバイクもまた、火のあぎとに飲み込まれた――かに見えた。
「〝巫の力〟を使う!」
「……ッ!!」
しかし、爆弾が降り注ぐ寸前、桃太の黒い瞳が青く輝き、ハンドルを握る黒騎士を淡い光で包む。
「戦闘機能選択、モード〝一目鬼〟。戦闘続行!」
黒騎士は、接近戦スタイルに切り替えた上に、桃太の支援を受けたことで、より大胆かつ精密なドライビングテクニックを披露することが可能になった。
蒸気バイクの前輪をあげたウィリー走行で爆発の狭間を抜けて、タイヤを横滑りさせるドリフト走行で爆風を回避、小刻みなジャンプを繰り返して爆撃跡を飛び越えた。
「無駄無駄、更に密度をあげるまでのことよ!」
啓介は、赤い爆炎と蒼い水辺の境界をかいくぐる大型バイクに激怒し、桃太達の頭上を鮨詰めの〝錐嘴鳥〟で覆い、絶え間なく爆弾を投下する。
「死ねええ」
「黒騎士、上は任せてくれ。これだけ密集した敵がいるなら、反射だって楽勝だ!」
桃太は黒い瞳を青く輝かせながら両手を掲げ、降り注ぐ爆撃の呪符を、孔雀のように羽を広げた緋色の手袋で弾き返した。
反射された爆弾は、衝撃波となって天井へ巻き上がり、それが更なる爆発を招いて、再度の反射を繰り返し、空の一角を爆発と衝撃の大渦に飲み込んでゆく。
今や、三〇〇体を超える〝錐嘴鳥〟は、半球状の反射結界に閉じ込められた、ハンバーグステーキの具材に等しかった。
「我流・螺子回転刃」
「AAAAAA!!」
そうして、桃太は反撃の狼煙をあげようとばかりに、緋色の手袋から衝撃刃を伸ばして反射結界内部で回転させ、あたかもミキサーやフードプロセッサーにでもかけたかのように、四鳴啓介が密集させた空飛ぶ式鬼を消し飛ばす。
「い、出雲桃太。なにをしてくれる!?」
「うおおおっ。やったあああ!?」
あとがき
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