第169話 日緋色孔雀という手袋
169
「吾輩達が作りあげた蒸気鎧の装甲にも、衝撃反射機能を搭載しているワケだが……、桃太君に渡した手袋、〝日緋色孔雀〟は、その始まりとなった試作品なんだ」
桃太はオウモの説明を受けて、かつて交戦した黒騎士の防御力がやたら高かった理由と、〝鋼騎士〟が猛威を奮った所以についてなんとなく想像できた。
「そういえば、S・E・I 〟も日緋色金を鎧に使っていると、柳さんが言っていました」
「そうなんだヨ。吾輩達、〝前進同盟〟が日本政府に提供した技術をS・E・I 〟が盗んだのさ。だから〝鋼騎士〟の装備や、あの神鳴鬼ケラウノスの装甲材にも用いられているようだネ。キミが先の戦いで四鳴啓介を倒せなかったのは、きっとそれが原因だヨ」
桃太はオウモの解説で、啓介が着た緋色の鎧に攻撃が命中した際、手応えがいまいちだったのはそういうわけかと納得した。
同時に、黒騎士がオウモにツッコミを入れた時、手刀であったことが脳裏をよぎり――。
「オウモさん、ひょっとして呉陸羽ちゃんを襲った一葉家の〝式鬼使い〟が、妙に斬ったり突いたりといった〝線や点を狙う攻撃〟を繰り返した理由は、オウモさん達が助言したからですか?」
――初めてリウと出会った夜、彼女が苦戦した原因にも勘付いてしまう。
「……フフフ。もう、過ぎたことじゃないか。日緋色金の性質はわかってくれたネ? 吾輩達は自動化の前に、まず手動で作用する道具を試作したんだ。この手袋、〝日緋色孔雀〟が始まりの試作品というのはそういう意味さ。軽く小突いてみるから、受け止めたいって念じてみてヨ」
桃太が手袋をはめて、オウモの平手打ちをタイミングよく受け止めると、手袋の生地が孔雀の尾羽のように広がって、打撃のショックを霧散させることができた。
「こ、これは凄い!」
「手動というのが難点で、ずっと倉庫の肥やしになっていたんだがネ。カムロはこの日緋色孔雀をつけた時、衝撃を散らすだけでなく、相手に向けて反射することさえ、やってみせたヨ。あんにゃろうの弟子である出雲クンならば使いこなせるんじゃないかい?」
「是非使わせてください」
桃太はオウモが用意した、洋服のジャケットに似せた青い鱗鎧や、鎖を編み込んだズボンを履いて、日緋色孔雀の手袋をはめ、黒騎士を相手に模擬戦を挑んだ。
「せい、そりゃ、やあっ」
「戦闘機能選択、モード〝一目鬼〟。戦闘開始!」
桃太が放つ掌底と黒騎士が繰り出す籠手が激突し、互いの力が拮抗。
桃太は、動きが止まった一瞬を好機と見て、二人分の衝撃を黒騎士に向けて反射する。
「どうだっ!」
「!?」
しかしながら、赤い手袋が孔雀のように羽を広げ、衝撃を跳ね返すと同時に、黒騎士はゴォっと蒸気エンジンをふかして大きく後退。
目標を失った衝撃波は、地面に亀裂を刻むにとどまった。
「!!」
直後、黒騎士は厚い靴底で反射痕を踏み潰し、背のオルガンパイプめいた排気口から赤黒い煙を吐き出しながら、反撃とばかりにショルダータックルを仕掛けてきた。
「やるねっ」
だが、桃太も黒騎士の動きを読んでいる。半身をそらして避けつつ、再び反射を狙うも。
「!!」
「あっれえ?」
黒騎士に腕を掴まれて投げられた上に、肩パーツから射出した投げ網の追撃を受けてしまう。
(だ、だめだ。同格以上の相手だと反射を当てる余裕なんてない。だったら!)
桃太はこの時、他人ではなく――。
むしろ自分が生み出す衝撃波に、反射というアクセントを加える方策を思いついた。
「我流・長巻、をこうすれば!」
桃太は自らがはめた手袋に敢えて衝撃波をぶつけることで、反射と拡散を繰り返し、迫る投げ網を引き裂きながら衝撃の刃を作り上げた。
「これでどうだあっ」
「!!??」
黒騎士は我流・長巻の射程を二メートルと知っていたため、およそ五メートルと二倍以上長くなった衝撃刃を避けることに失敗。頑丈な鎧にも正面から傷をつけることに成功した。
「よし、思った通りだ。威力と有効射程が伸びたぞ!」
あとがき
お読みいただきありがとうございました。
ブックマークや励ましのコメント、お星様、いいねボタンなど、お気軽にいただけると幸いです(⌒▽⌒)