第167話 前進同盟との共闘成立
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時を遡ること約三週間前の、西暦二〇X二年六月八日。
四鳴啓介が異界迷宮カクリヨ、第七階層〝鉱石の荒野〟にて、神鳴鬼ケラウノスを動かした日――。
「四鳴家と〝S・E・I 〟は、獅子央孝恵にこれまでの犯罪を明らかにされ、冒険者組合を除名されたと聞いて、地上の日本へ攻め込む気だヨ。吾輩達は一葉家と〝J・Y・O〟との契約に従い、アレを討つ。出雲クン達には是非とも我々に協力して欲しいネ」
クマ国の過激派団体〝前進同盟〟の指導者オウモは、巨大なバス型の移動車両、ホバーベースの窓から見える、地球日本と異世界クマ国、二つの世界を揺るがす怪物のシルエットを指さしながら、桃太らに共闘をもちかけた。
「もちろん、報酬は用意するとも。四鳴啓介の〝鬼神具〟、〝百腕鬼の縄〟に操られないよう、柳サンが着る〝鋼騎士〟の鎧を改造し、出雲クンや祖平サン、ブンオーちゃんにも吾輩が開発した装備を提供しよう。道中の水と食料も提供する。どうだい、悪い話じゃないだろ?」
額に十字傷を刻まれた少年、出雲桃太は、瓶底メガネをかけた白衣の少女、祖平遠亜、サイドポニーの目立つ少女、柳心紺と、彼女の〝式鬼〟である八本足の虎ブンオーと頷き合って、決断した。
「わかりました。共闘をお願いします。ですが、強制労働施設から救出した子供達は、戦いに巻き込まないでください」
「わかっているとも。ケラウノスを追うのは、吾輩達が乗り込む一台だけだヨ。それでも、神鳴鬼ケラウノスに追いつくまでの露払いくらいはやってみせるサ。子供達のことは、外交官の奥羽以遠に託すから、地球に戻ったら彼と連絡を取りたまえ」
オウモ達が使う、角を連想させる一対の巨大煙突がついた、幅二メートル、車高四メートル、長さ一五メートルに達する巨大車両ホバーベースは、足下に熱風を吹き付けて浮遊することで、水辺や不整地をものともせずに走行することが出来た。
とはいえ、異界迷宮カクリヨは広く、〝S・E・I 〟が守る軍事拠点に阻まれたり、野生のモンスターにも襲われたり、といったアクシデントもあり、四鳴啓介と神鳴鬼ケラウノスに追いつく為には三週間の時間を要した。
その間にオウモはサイドポニーの目立つ少女、柳心紺の鎧を改修し、彼女の式鬼であるブンオーにも着衣型の装甲を取り付けた。
「あのバカボンボン、啓介が作ったこの鎧と戦闘服はとにかく使いにくいんだ。黒騎士さんみたいに堅いわけじゃ無いし、戦闘服部分も脆いし。アタシとしては、まず灰色というのが嫌なの。可愛くないし、カッコ良くもない」
「フム。柳サンの名前にあやかって、紺色に塗り直すかネ。……酷い劣化だヨ。盗んだ情報の上辺だけを真似たから、弱点がむき出しになっている」
「あと弓も使いやすくして欲しいし、盾も欲しいなあ」
「技術者としてやり甲斐のある仕事だヨ! 攻防一体型の遠隔操作兵装でも作ろうかネッ」
桃太は、心紺とオウモのそんなやりとりを見ながら、目をキラキラと輝かせた。
「オウモさん、俺も蒸気鎧を着てみたいです」
「ホウ、貴重なデータを得られそうだ。是非とも使ってくれたまえ」
桃太は、黒騎士が着る鎧のスペアだという機械仕掛けの全身鎧を試着したものの、残念ながら動かすことが出来なかった。
「出雲クン。この蒸気鎧も〝鬼神具〟の一種でネ。着込むことで〝鬼に変身する〟んだヨ。でも、機械仕掛けのせいか、大自然から恵みを得る〝巫の力〟とは、噛み合わせが最悪みたいだネ。一歩も動けないとは、驚いた……」
「そんなああ」
あとがき
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