第166話 鬼のコトワリ、人のユメ
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幸保商二ら勇者パーティ〝N・A・G・A〟の冒険者達は子供達を守ろうとして倒れ――。
「幸保さん、みんなっ。四鳴啓介。卑怯者め、お前なんかの思い通りにはならないサメッ。あううっ」
銀髪碧眼の少女、建速紗雨もまた、一瞬の隙を突かれて八本足の虎、式鬼の爪を背中に受けて、赤い血がほとばしった。
「紗雨ちゃん、今行きます」
「よくもサアメをやったなっ」
「こいつら、目にものみせてやる」
「鬼の矢をくらえいっ」
「GRUUUUU!?」
担任教師である矢上遥花や、昆布のように艶のない黒髪のジャージ服を着た悪友、伊吹賈南ら、焔学園二年一組一同が、決死の抗戦で式鬼を倒して彼女を救出。
ざっくりと切られた背中の傷口にレッドポーションを振りかけ、治癒術をかける。
「大丈夫か!? サアメ、しっかりしろ」
「へ、へっちゃらサメエ」
紗雨は強がったものの傷は深く、治療を終えるまでの間、戦闘続行は不可能に見えた。
「おい、伊吹。矢上先生と一緒に、生き残った女子を連れて逃げろ。関中、悪いが男子は殿に残って貰うぞ」
「へえ、たまには気が合うっすね」
大人の冒険者達が負傷し、紗雨も戦闘不能となった絶望的な窮地において……。
二年一組に配属されて以後、ずっと張り合っていた二人、関中利雄と羅生正之は、各々の友人達と共に脱出路を維持しようと円陣を組んだ。
「なにを言っているんです。貴方達は生きて地上に戻るんです。走りなさい」
「先生、生きる為に残るんです」
「紗雨ちゃん達をお願いします」
遥花が説得を試みるも、もはや男子達は命をなげうつ覚悟を決めたようだ。
「い、嫌サメ。こんなのはダメなんだサメ、桃太おにーさん、助けてサメエ」
「残念だったな、サアメ……。ここは異界迷宮カクリヨ。鬼の理が支配する魔界よ。人が夢に見るヒーローなど居るはずもない」
賈南が今にも泣き出しそうな顔で、紗雨を諭したとき――。
ゴウン! という轟音をあげて、南の軍勢の一角が崩れた。
「鬼さんこちら、手のなる方へ!」
バイクのような乗り物に二人乗りした黒い衣装の正体不明のコンビが、〝S・E・I 〟の式鬼の群れへ飛び込み、速度と重量で数体まとめて吹っ飛ばした。
「我流・手裏剣!」
黒いマントで顔の隠れた人影が石を投げて、嘴の長い鳥や八本足の虎を撃ち、あたかも砂糖を熱するかのように、南側軍勢の一角を溶かしてゆく。
「すごいっ」
「なんだ、あれはっ」
その様を遠目から見る者は、一瞬危機を忘れて感嘆の声をあげた。
しかし、そんな絶好調が長く続くはずもない。
「何者だ。いいところでじゃまをするな」
「AAAA!!」
清水砦の残骸に居座る啓介が、光輝く糸で〝鋼騎士〟の小隊を操り、槍を手にバイクの前に立ちはだかって、渾身の一斉攻撃を放った。
「我流・直刀!」
「「わ、我々を踏み台にした?」」
「「ええっー?」」
されど、意外なことに、地に沈んだのはバイクではなく、〝鋼騎士〟の方だった。
黒マントで顔の見えない人物は軽やかに跳躍し、灰色鎧を着た冒険者達を踏みつけながら槍を避け、見事なカウンターで飛び蹴りをあびせたからだ。
「紗雨ちゃんっ」
ラジコン人形の壁。その一段目が突破され、次の部隊と交戦を始める同時に、黒いマントが外れ――。
紗雨にとって、遥花にとって、賈南や啓介にとっても忘れるはずがない、懐かしい声が聞こえた。
「この声は、桃太おにーさん!?」
「桃太君っ」
「まさか、まさかああっ」
「ふざけるなああ。死人がああっ」
見覚えのある額に十字傷を刻まれた少年が、黒いフルプレートアーマーを着た怪人物が運転するバイクの荷台に立ち――。
〝緋色の手袋〟をつけた両手から五メートルを超える長い衝撃の刃を振るって、立ちはだかる〝鋼騎士〟と〝式鬼〟の軍勢を薙ぎ払う。
「皆、助けに来たぞ!」
あとがき
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