第164話 絶体絶命
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「ええい、モグラ叩きじゃあるまいし」
「まずい、門が破られるぞ!?」
銀髪碧眼の少女、建速紗雨ら焔学園二年一組の研修生が守る、清水砦北側にある裏門は、際限なく押し寄せるテロリスト団体〝S・E・I 〟の軍勢によって遂に破られ、二の丸への侵入を許してしまう。
「サメエ。一旦、本丸に撤退して矢上先生や幸保指揮官と合流するサメエエっ」
「二年一組の研修生はわたしのリボン、〝夜叉の羽衣〟につかまってください。舞台登場 役名宣言――〝賢者〟!」
担任教師の矢上遥花が豊かな胸を弾ませながら、赤いリボンを伸ばして紗雨達を救出したが、劣勢は明らかだ。
それでも砦の北側は、攻め手が険しい岩場を迂回する必要がある分、南側の戦場に比べればマシだった。
本隊である勇者パーティ〝N・A・G・A〟が守備する正門は、啓介が光り輝く糸でラジコンカーのように操る〝鋼騎士〟や〝式鬼〟の攻撃を受けるに留まらず……。
全長一〇メートルに達する巨大な鋼鉄の鬼、神鳴鬼ケラウノスの襲撃を受けていた。
「〝夜叉の羽衣〟だと? 寒門の雑魚が振るう〝鬼神具〟など恐れるに足りない。世界皇帝の、否、新たな鬼神の力を見せてやろう」
四鳴啓介のあざ笑う声が高らかに響くや、バリバリという轟音が響き、清水砦の正門がある石造りの南外壁が消失した。
神鳴鬼ケラウノスが拳を振りかぶり、閃光を発しながら叩きつけたことで、跡形もなく粉砕したのだ。
「ば、バケモノがああ!」
「うわあああああああ!」
雷光を伴う砲弾のような一撃を受けて、正門を守る冒険者たちの悲鳴が木霊するも、すぐに聞こえなくなった。
「キシシシ。しね、しねしねえええっ」
啓介が心臓部のコックピットで操る神鳴鬼ケラウノスは執拗な攻撃を繰り返し、黒焦げとなった守備隊員の遺体を、二の丸どころか内壁を越えた本丸の屋敷まで吹き飛ばすほどだった。
「あんなでかいやつ、どうすりゃいいんだ!」
「なんてデタラメな力。これがケラウノスかっ」
後詰めに待機していた冒険者達が、本丸を守る内壁から出て、二の丸で食い止めるべく、矢を射かけ、あるいは剣や槍で立ち向かうも……。
雷をまとった巨大な鋼鉄の鬼は、象が蟻を踏み潰すかのように、平然と殺しながら歩を進めた。
「キシシシシ、サイッコオオ! これが無双というものかあ」
そうして本丸を守る内壁まで至ると、見せつけるように足を振り上げて一気に踏み下ろす。
耳をつんざくような爆発音をあげながら、内壁は大きな亀裂が入って砕け、地面すらも深々と陥没した。
「キシシシシ。ころす、ころす、みなごろしだあああ」
啓介は笑いながら地団駄を踏み、次は両手を使って押しつぶし始めた。
まさに一方的な破壊にして虐殺。
ケラウノスが巨大な手を動かすたびに、城壁や塔、見張り台といった建造物は、人間の焦げる臭いに包まれながら、まるで積み木を崩すかのようにバラバラと散って行く。
完全に破壊された清水砦の屋敷跡には、焼けこげた遺体と瓦礫の山しか残らなかった。
あとがき
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