第163話 清水砦防衛戦
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建速紗雨ら、焔学園二年一組は、幸保商二ら勇者パーティ〝N・A・G・A〟に協力して、テロリスト団体に堕ちた〝S・E・I 〟の補給線を攻撃、的確に戦力を削いだ。
「新たな英雄、出雲桃太殿の学友は頼りになるな!」
「さすがは〝賢者〟、矢上遥花殿が育てた門下生。大人顔負けの活躍ではないかっ」
幸保商二は、今や失われた〝C・H・O〟の切り札、〝千曳の岩〟の補給砦を託されただけあって、彼も彼の仲間達も頼りになる優秀な冒険者だった。
しかし、戦果をあげればあげるほどに、クーデターの主犯たる四鳴啓介に目をつけられることになるのは、当然の理屈だろう。
「まだ虫ケラが残っていたか。今度こそ、我が手で滅ぼしてくれる!」
西暦二〇X二年六月三〇日早朝。
本拠地である第七階層〝鉱石の荒野〟を発った四鳴啓介と神鳴鬼ケラウノスが、遂に第五階層〝妖精の湖畔〟へ侵攻。
転移門に近い南の湖を背に、北に位置する清水砦へ向けて進軍した。
「砦を取り巻く敵多数。湖の浅瀬を埋め尽くすほどです」
「いつもの灰色騎士と、赤い八本足の虎が来るぞ!」
清水砦は、館のある本丸を中心に内壁で囲み、防衛線を展開する為の二の丸と、それを守る外壁という、二つの壁で守られた輪郭式の平城である。
その裏門である北側外壁を守る、二年一組の研修生。関中利雄と羅生正之が目撃したのは、ビリビリと雷をまとった巨大な鋼鉄の鬼から伸びた糸に繋がれて進む〝鋼騎士〟と〝式鬼〟の軍勢だった。
「炭が足りないからって、電気コンセントに切り替えた? なんて無茶をするサメー」
「こうも多勢に無勢とは勘弁して欲しいぞ。しかし、サアメ、あれこそが啓介の想定していたケラウノスの使い方だろうよ。ほれ、遠視鏡を貸してやるから見るがいい」
関中や羅生の隣に立つ、紗雨と賈南が防壁の上から遠視鏡を覗くと……。
灰色の鎧をまとった〝S・E・I 〟冒険者達は、これまでの戦闘で負傷したのか、全身に傷を負った痛ましい姿で行軍を続けていた。
もはや半ば鬼と化しているらしく、傷口からは血の代わりに赤い霧と黒い雪をボロボロと垂れ流している。
「さしずめ、発電機に繋がれて行進するブリキ人形の軍隊ってところかな。いつか紗雨ちゃんが例に出した、ゾンビ映画みたいだ」
「あれはサメ映画じゃなかったか? 勇者パーティがテロリストに落ちた挙句、パニック映画の役者に転職か、笑えん冗談だ」
死人にも似た軍勢は岩場を迂回、関中や羅生ら、二年一組の生徒達が籠もる砦の北の防壁へゆらゆらと近づいてくる。
「〝戦士〟隊、撃てえ!」
「〝黒鬼術士〟隊、奴らを近づけるな!」
北壁の守備隊は、矢や火の玉を放つも――。
「「「AAAAAAA」」」
神鳴鬼ケラウノスから伸びる光輝く糸に繋がれた〝鋼騎士〟や〝式鬼〟達は、負傷をものともせず、操られるがままに砦へ向かって突撃した。
〝S・E・I 〟の同胞が倒れても、庇うどころか踏みつけにして襲いくる。
「な、なにを考えているサメエっ!?」
「サアメ。四鳴啓介にとって、人命など鼻をかむチリ紙ほどの価値もないということだっ」
灰色の鎧を着込んだ鋼騎士と、赤い八足虎の群れは、もはや意思があるのかすら不明な死んだ目で、肉の弾丸にでもなったかの如く、清水砦の壁や門に激突を繰り返す。
そして、倒れても倒れても、南のワープゲートから人員が補充されるのだから、たまったものではない。
「ええい、モグラ叩きじゃあるまいし」
「まずい、砦の門が破られるぞ!?」
あとがき
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