第162話 紗雨、冒険者組合と共闘す
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「獅子央賈南が去って目が覚めたのか? 惚れた女の影を追うからこそ強くなったのか? どちらにせよ、今の孝恵は侮れん」
一葉朱蘭は盃を重ねて酒毒に溺れながらも、無能と蔑まれる代表がまるまるしたお腹に隠した牙を、正しく評価していたのかも知れない。
テロリスト団体〝S・E・I 〟の精鋭、蒸気鎧に身を包んだ〝鋼騎士〟が暴れ回り――。
神鳴鬼ケラウノスの干渉で、電子機器や車両が不具合を起こして、日本政府と警察が有効な手立てを取れない中――。
冒険者組合代表の獅子央孝恵は、まさかの決断をくだす。
「勾留や謹慎中だった元〝C・H・O〟の幹部を釈放し、五馬碩志が率いる勇者パーティ〝N・A・G・A〟の預かりとして、戦線に投入する」
五馬家は、一〇年前に鷹舟俊忠の策謀で、二河家と共に壊滅しており、再興した今も所属の冒険者は年若い者ばかりだった。
電子機器が使えず、警察や自衛隊の協力も難しいとなると、〝S・E・I 〟と戦うには、大人数を率いた経験のあるベテラン冒険者がどうしても必要になったのだ。
「孔偉。お互い、まさか釈放と同時に現場指揮官に任命されるとは、驚いたなあ」
「栄彦よ。実は東平家も追い詰められている。四鳴家とはクロい付き合いがあったから、活躍してシロだって証明しないとね」
呉栄彦と、東平孔偉。
かつて黒山犬斗の悪意でクマ国、カムロとの戦いに巻き込まれ、なおも生き延びた二人。
彼らは、五馬家を冠にいただく勇者パーティ〝N・A・G・A〟の若き冒険者を率いて、八闇家と共闘し、四鳴葛与が擁する精鋭部隊〝鋼騎士〟を相手に、互角以上に渡り合った。
「葛与さん。神鳴鬼ケラウノスを〝式鬼〟にするだの、日本中の電気を狂わせるだのといったクーデターよりも、もっとやれることがあったはずです」
「啓介の阿呆に付き合う義理は無いぞ」
「そんなことはわかっている!」
外部からは知る由もなく、後の調査で明らかになったことだが――。
地上部隊を委ねられた葛与は、『出雲桃太を正式に受け容れよ』と代表である四鳴啓介に対し、再三にわたって直談判していた。
「それでも、私は四鳴の指揮官だ! まだ勝敗は決していない」
「栄彦よ、姐さんは頑固だぞ。押し切るにはちとキツい」
「やはり決戦の地は、異界迷宮カクリヨ。神鳴鬼ケラウノスを抑えなければどうにもならないかっ」
このように、地上の戦いが激化していた頃――。
異界迷宮カクリヨの内部、最前線となった第五階層〝妖精の湖畔〟で〝S・E・I 〟の軍勢と向き合っていたのは、栄彦達より一足先に釈放されていた元〝C・H・O〟の若き指揮官、幸保商二だった。
そして、銀髪碧眼の少女、建速紗雨や、昆布のように艶のない黒髪の少女、伊吹賈南ら、焔学園二年一組もまた彼の守る防御拠点、〝清水砦〟に身を寄せていた。
「出雲君には、亡き三縞代表の名誉と、この命を救われた恩がある。彼が戻るまで必ずや、貴方方をお守りしましょう」
「サメー、助かるサメー。〝鋼騎士〟は強力だけど、地上で動かすのに特製の木炭が必要。そして、地下階層だとご飯がいっぱいいるんだサメエ」
「なるほど、補給線を叩く。戦の常道ですね!」
紗雨達、焔学園二年一組は、幸保の指揮する勇者パーティ〝N・A・G・A〟の冒険者と共にゲリラ戦を展開。
〝S・E・I 〟の輸送部隊が地上に運ぶ木炭や、地下に運搬する食糧などの物資を、片端から焼き払った。
「ボコボコにしてやるサメ!」
「うわあああっ。こいつら本当に研修生か?」
「アハハ。妾達をただの研修生でいられなくしたのは、其方らの代表、啓介であろう」
「こ、これでは地上と地下が分断されてしまうぞ。ちくしょおお」
あとがき
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