第160話 神鳴鬼の恐怖
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西暦二〇X二年六月八日。
異界迷宮カクリヨで神鳴鬼ケラウノスが立ち上がった日は、日本でも多くの動きがあった。
まず、獅子央孝恵が代表を務める冒険者組合が二つの勇者パーティ、四鳴啓介率いる〝S・E・I 〟と、一葉朱蘭が中心となった〝J・Y・O〟を除名した。
また同日。日本国は、出雲桃太の殺害と日本国への反乱、汚職、横領、児童誘拐など複数の容疑で、四鳴啓介と一葉朱蘭に逮捕状を請求、全国で一斉捜査に踏み切る。
「ひとまず負けだ。亜大、七罪家に連絡をとりな、あちらに合流するよ」
「まったく朱蘭様もザマァない。孝恵のお坊ちゃんとお人好しの五馬を利用して、四鳴家を罠にかけて代表の座をいただくはずが、完敗じゃないですか。ま、退路を用意していただけマシか」
一葉家と〝J・Y・O〟では、一葉朱蘭や奥羽亜大ら首脳陣が即座に逃亡。
他の団員は、児童誘拐の容疑こそ四鳴家の単独犯行だと否認したものの、警察の捜査自体は無抵抗で受け入れた。その一方で――。
「我らを逮捕しようなど笑止千万。軟弱な日本政府と冒険者組合など恐れるに足りない。今こそ革命の時、選ばれし者よ。四鳴の元に集え!」
四鳴家と〝S・E・I 〟所属の冒険者達は、異界迷宮カクリヨ内部のキャンプ地で蜂起。
昨年の〝C・H・O〟に引き続き、武力による反乱を引き起こした。
「古き日本を打ち倒し、革命の大義の元、この偉大なる啓介の元で、まったく新しい国家を打ち立てるのだ!」
四鳴啓介が冒険者組合を除名され、クーデター開始から二週間。
〝S・E・I 〟は地上に侵攻し、各地で火の手があがった。
テロリストに堕ちた勇者パーティの冒険者達は、デタラメなスローガンを口々に叫びながら役所や警察署を襲い、街を破壊して回る――。
そんな凶行を、一葉朱蘭と奥羽亜大は、七罪家に用意された高級ホテルのバーから眺めていた。
「やれやれ、今の四鳴にいるのは、金メッキばかりか。どれだけの恨みを買うことだろうねえ」
「啓介の奴は、阿呆ですか? 出雲桃太という置物を飾っているだけで、代表の座と権力が転がりこんだはずだ。わざわざ金の卵を産む鶏をしめ殺し、クーデターを引き起こす理由がどこにあったのやら」
「だからこそ、獅子央孝恵は出雲桃太を釣り餌に使ったんだろうよ……。亡き英雄〝獅子央焔〟の息子、冒険者組合の現代表が〝C・H・O〟の暴挙から日本国を救った新しい英雄を育てる。それだけで、周囲は幻を見るのさ。いずれこの少年は、冒険者組合のトップになるに違いない、とね」
孝恵が八大勇者パーティの腐敗を糺そうと演説したことも、啓介の不安を駆り立てただろう。
「なるほど四鳴啓介は、自分が一番じゃないと許せないクソガキだ。嫉妬のあまり思い詰めて出雲桃太を殺害し、独裁者になろうと謀ったわけか」
朱蘭はお前が言うなよ、と喉元まで出かかったツッコミを、蒸留酒で流し込んだ。
「だがね、亜大。たとえ自己愛と虚栄心の暴走が原因であっても、それができるだけの力が神鳴鬼ケラウノスにはあるんだ」
朱蘭が琥珀色の酒が入ったグラスを置き、チェイサーを手に取った時。
四鳴啓介の酔っぱらったような声が、突如として日本中に響き渡った。
『愚かなる冒険者組合と日本政府に勧告する。この世界皇帝。否、現世界の神、四鳴啓介にひれ伏すがいい!』
バー全体が揺れて、電灯が点滅して消える。
日本の各所で電気が止まっていた。
「な、なんですか、これは?」
「千曳の岩による転移質量攻撃と一緒だよ。強大無比な〝鬼神具〟の力は、世界をも飛び越える。獅子央孝恵よ、出雲桃太という切り札を欠いて、果たして止められるかい?」
あとがき
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