第159話 ケラウノス立つ
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「我々〝前進同盟〟の構成員は、失った自分たちの国を取り戻したいという元地球人が半分、彼や彼女達を支えようとするクマ国の有志が半分さ。八岐大蛇の根絶が目的という言葉に偽りはない。地球侵略を望んでいるのではなく、ただ彼や彼女達が帰るための国を建てたいだけだ」
紫色の全身鎧を着込んだ代表、オウモの語る組織の目的は、表面上はもっともであっただろう。しかし、桃太達が賛同するには、いくつもの危険性が仄みえていた。
「オウモさん、クマ国に逃げてきた地球の人達って、〝鬼の力〟による汚染は、大丈夫だったの?」
「私達は、先の戦いで勇者パーティ〝C・H・O〟の同期だった伏胤や、組織を歪ませた元凶である黒山が鬼に堕ちるのを目撃した。あれは、恐ろしいものだ」
サイドポニーの目立つ少女、柳心紺と、瓶底メガネをかけた白衣の少女、祖平遠亜の問いかけに、オウモは首を縦に振った。
「クマ国には、吾輩達の代表、カムロのトンチキ……いや、個性的な演奏をはじめ、〝鬼の力〟の狂気を鎮静化する手段が複数あるんだヨ。正気を取り戻した者は再起を図り、前進同盟を頼ったのさ」
「あ、出雲が教えてくれたダンスみたいなの!」
「そういえば、その知識は元々、クマ国で得たんだ」
桃太は、心紺と遠亜の反応を見ながら、牛の仮面を被った師の苦悩を思った。彼は弟子を政争に巻き込まないよう、配慮してくれたのだろう。
「俺は、心のどこかでクマ国は関係ないと思い込んでいた。でも、二つの世界は既に繋がっているのか」
されど、だからこそ見逃せない点がある。
「オウモさん、カムロさんは貴方達〝前進同盟〟の活動を認めているんですか?」
オウモはフルフェイスヘルメットの口部分をあけてお茶をずずっとすすり、湯呑みをバン! とテーブルに叩きつけた。
「あの堅物が、許すわけないじゃないか。〝前進同盟〟は由緒ある政治結社なのに、今じゃクマ国中で指名手配されて、過激派扱いだヨ!」
桃太は内心そうだろうではないかと疑っていたが、案の定だった。
「吾輩達がホバーベースで移動しているのは、ひとつところに留まろうものなら、問答無用でぶっとばされるからだヨ。あんにゃろうめ、年をとって短気になった。いや昔から短気だったがネ!」
桃太達は、オウモの口角泡をとばす愉快な反応に目を白黒させた。
「そういう訳で、吾輩達は新戦力を望んでいる。もしもキミ達が望むなら一葉家と手を切ることも検討するし、新国家でも然るべきポストを用意しよう」
桃太は、オウモの誘いに首を横に振った。
「俺は、カムロさんが安易に過激派として認定するはずがないと信じています。参加は見送ります」
「アタシもちよっと酷い目にあったばかりだから、簡単には決めたくない」
「前進同盟の理想はわかる。でも、日本をはじめ地球の国家群との軋轢は避けられない。貴方達に協力して、友人と殺し合いになるのは困る」
桃太、心紺、遠亜の反応に、オウモは残念そうに肩をすくめた。
「そうかい、残念だネ」
桃太は暇乞いを申し出ようとしたが、その時、びしゃーんという轟音が鳴り響き、大地がぐらぐらと揺れた。
「な、なんだ。地震?」
「始まったか。キミ達もあれは放置できないだろう」
オウモに促され、桃太達が窓の外を覗くと、大規模発電所があったはずの場所に、一〇メートルはあるだろう雷をまとった鋼鉄の巨人、神鳴鬼ケラウノスが立ち上がっていた。
あとがき
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