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第157話 指導者オウモ

157


 西暦二〇X二年六月八日。

 額に十字傷を刻まれた少年、出雲いずも桃太とうたは、一葉いちは家の傭兵を名乗る女性オウモに誘われて、クマ国の政治結社〝前進同盟ぜんしんどうめい〟の移動拠点、ホバーベースに乗り込んでいた。

 地球上のバスを連想させる、全長一五メートルに及ぶ巨大車両の中には、いくつもの部屋が用意されており――。

 桃太達は応接室のソファで、オンライン上の冒険者組合臨時総会と、相棒の五馬いつまがいが変装したミスターシノビと〝鋼騎士ギガース〟が戦う代表室の映像をモニターで見ることができた。


「出雲クン。先ほど冒険者組合を除名された、一葉いちは家と元勇者パーティ〝J・Y・Oジュディシャス・ヤング・オーダー〟がキミの御両親を襲撃しゅうげきした件だが、吾輩わがはい達は知らなかった。雇い主の非道について謝罪する」


 桃太達の対面に座ったオウモは、紫色の全身鎧フルプレートアーマーを身につけているので素顔が見えず、声も加工されていたものの、深々と頭を下げた。


「いえ、がい孝恵たかよし校長のおかげで助かったみたいですし。父さんと母さんが無事で良かった……」


 桃太は、ひとまず両親が無事と知って胸を撫で下ろした。


出雲いずも遠亜とあっち、それにしても凄いね。異界迷宮カクリヨでは精密機械が使えないはずなのに、こんなことが出来ちゃうなんて」

心紺ここんちゃんの言うとおり。オウモさん達は、迷宮の中から地上の映像を見ることが可能。これはとんでもない技術だよ」


 そして、桃太の隣に座ったサイドポニーが目立つ少女、やなぎ心紺ここんや、瓶底メガネをかけた白衣少女、祖平そひら遠亜とあは、天地がひっくり返るような衝撃を受けていた。


「そうだね。柳さん、祖平さん。俺に稽古けいこをつけてくれたカムロさんだって、ここまでは出来なかったと思う」


 桃太が師事したカムロも、クマ国に居ながらにして、日本政府外交官の奥羽おうう以遠もちとおを相手に異世界間通話をやっていたが、ただの通信と、情報を盗み見るハッキングでは、難易度も意味合いもまるで変わってくる。


「フフフ。驚いたかネ? このホバーベースは、車体自体が八岐大蛇やまたのおろちがかけた機械停止の呪いに対抗する結界となっているんだ。地球の科学とクマ国の術式を融合させた独自技術こそ、半世紀以上の歴史を持つ偉大な政治結社、〝前進同盟ぜんしんどうめい〟が持つ偉大な成果なのさ」


 オウモが誇らしげに胸を張ると、その隣に座った黒騎士も、こくこくと頷きながら急須きゅうすから爽やかな香りのするお茶を注いでくれる。


「オウモさん達は、クマ国の政治結社だと仰いましたが、どんな目的で活動されているのですか。あくまで一葉家には、雇われているだけなんですよね?」

「そうだとも。吾輩達〝前進同盟〟は、八岐大蛇やまたのおろちの根絶を目指している」

「なんだあ、そうだったんだ」

「安心した。このお茶、美味しい」


 桃太も、心紺も、遠亜も、オウモの目的を聞いて、胸騒ぎが収まるのを感じた。


「吾輩達はその為に、地球上に我々の国家を建てたいと考えているんだ。その為に、日本では一葉家と元勇者パーティ〝J・Y・Oジュディシャス・ヤング・オーダー〟に雇われ、北米や西欧でも傭兵として働いているんだヨ」


 ――が、続く言葉で台無しになった。


「ち、ちょっと待ってください。国家を建てたいってどういう意味ですか?」

「言葉通り、そのままの意味だよ」


 桃太の知る限り、クマ国の代表であるカムロは、〝彼らにとっての異世界〟である地球への進出を禁じていたはずだ。

 自分たちの世界に未開拓の土地が山ほどあるのに、他所様よそさまの世界に手出ししてどうする、とも――。

 それは建前かも知れないが、地球とクマ国、双方の世界の平和を守るために必要不可欠な大義名分たいぎめいぶんだった。


「オウモさん。貴方は、異世界間戦争を引き起こすつもりですか?」

「そうだと言ったら?」


 桃太は拳を握りしめ、心紺や遠亜と、そっと目配せを交わした。

あとがき

お読みいただきありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
[一言] >八岐大蛇の根絶を目指している オウモ「旧世界の支配者など不要。吾輩達こそが真の支配者だ」
[一言] やはり車自体が結界になっていましたか。 カクリヨの精密機械制限は八岐大蛇の呪いでしたら、対抗方法があるのでしょう。 それを隠していた前進同盟が何を狙っているのか。 絶対に穏当な目的ではない…
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