第154話 ダメな坊っちゃんの奮闘
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獅子央孝恵は代表室のデスク裏に隠れながらも、福々しい顔を携帯端末で映し、一葉朱蘭ら〝J・Y・O〟による犯行を明かし始めた。
「ここに、ミスターシノビ達が集めた証拠があるんだな。朱蘭さん達は〝時空結界〟を悪用して、〝楽陽区〟にある冒険者組合本部や、東京の国会議事堂に爆弾を仕掛けただろう。四鳴家になすりつけようとしても、そうは問屋がおろさないんだな」
朱蘭の酒で濁った瞳から完全に酔いが消えて、凍るような殺気が灯る。
「言いがかりはよして欲しいね。四鳴家がやったに違いない。一葉家と〝J・Y・O〟を巻き込むのは筋違いってものさ」
「一葉家に伝わる〝勇者の秘奥〟、時空結界は、対象を隔離した時空間に引き込む鬼術だけど、欠点もあるんだな。ひとつは〝精度が悪くて対象以外も巻き込んでしまうこと〟。もうひとつは、〝結界内で生命が失われた場合、そのままになること〟なんだな」
奥羽亜大が呉陸羽を狙った際、隣にいた桃太が巻き込まれたように。
桃太と紗雨が黒騎士と交戦した後、公園の樹木や花壇の花が破壊されていたように。時空結界とて万能には遠く、完全犯罪は容易ではない。
「だから、不自然な動物の死体や花の残骸などを追えば、鬼術の痕跡を掴めるんだな。一葉家が四鳴家と別にクーデター計画を練っていたことは、柳達が捕まえた容疑者が自白した。〝S・E・I 〟だけじゃなくて、〝J・Y・O〟にも捜査令状が出ているんだな」
一葉朱蘭は、言い逃れが不可能だと悟ったのだろう。
「キハハハ。念の為に人質を取ろうとしたことと、破壊工作を仕込んだことが裏目に出たかい。葛与の言う通りさね。孝恵のことは、ダメな坊ちゃんと思い込んでいたが、やればできる子じゃないか。監視カメラが壊れる前に映っていた天狗男と三毛猫も、いったい何者なんだろうね?」
朱蘭はあの短い時間、画面越しに見ただけで、二人が〝鬼勇者〟級の達人であると見抜いたようだ。
「ミスターシノビは愉快なアルバイトで、リンちゃんは可愛い三毛猫なんだな」
「ま、いいさ。孝恵、今はお前が強い。一葉は地下へ潜るが、その首と屋敷は預けておくぞ」
朱蘭は蒸留酒を最後の一滴まで飲み干すと、瓶を投げ捨てる音を残して、オンライン会議からログアウトした。
「さあ決議を取ろう。冒険者組合には自浄能力があるのだと日本政府に示そう。今度こそぼく達の手で〝S・E・I 〟と〝J・Y・O〟のクーデターを止めるんだ」
かくして冒険者組合の臨時集会は、冒険者組合の現代表である獅子央孝恵が、次期代表候補であった四鳴啓介と一葉朱蘭の犯罪を暴いたことで決着をむかえた。
「これで勝った、と喜びたいけど。まだなんだな」
そして監視カメラが壊れた後も続く代表室の戦闘も、遂に幕が下りようとしていた。
「一〇対一。いや一〇対二だったはずが、残るは隊長の俺だけか。ミスターシノビとやら、今は亡き五馬乂様に匹敵する、〝葉隠〟の使い手と戦えるとは光栄だ。ならばこそ、その首をもらってゆく」
〝鋼騎士〟の隊長、志多都十夢は、薄くなった胡麻塩頭をぼりぼりとかいて、巨大な斧を掲げて気合いを入れると……
蒸気機関を全開でぶん回し、オルガンパイプ型の排気口から、赤黒い煙を吐き出した。
あとがき
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