第152話 葉隠
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「サメ子直伝、サメアッパー!」
「ニャニャー!?(ああもう、乂は女心がわかってない!)」
「はやいっ!?」
五馬乂は、首にマフラーのように巻きついた三毛猫姿の三縞凛音のツッコミを聞き流しつつ、冒険者組合代表室に押し入った〝鋼騎士〟隊員に接近――。
「たしか、こうで、こうだ!」
風をまとった左肘を腹部に撃ち込んで灰色鎧を砕きつつ、剥き出しになった戦闘服を右膝で追撃。くの字になって落ちてきた標的の顎を、右拳でカエルアッパーのようにかちあげて吹っ飛ばした。
「ひぎゃああああっ」
先ほど乂の髪型にケチをつけた隊員は、きりもみしながら天井まで浮き上がると、絨毯に頭から突き刺さるように落ちて失神した。
「……銃は捨てろ。我々では当てられん。なるほど風をまとい、銃弾を避けて鎧を砕く。ミスターシノビ、貴様が使っている体術の正体がわかったぞ。五馬家に伝わる〝勇者の秘奥〟、〝葉隠〟だ」
「そうだ。ハイド・ザ・リーブズを破らない限り、お前達にオレは倒せないっ。残り八人、テンションあげていくぜ!」
天狗面をかぶって変装した五馬乂と、三毛猫に化けた三縞凛音が、冒険者組合代表室を襲撃した〝鋼騎士〟を二人を瞬く間に倒した映像を監視カメラが捉えたことで、オンライン会議の雰囲気は一変した。
「ミスターシノビが使う体術が、五馬家に伝わる〝勇者の秘奥〟だって?」
「さ、流石は、孝恵代表だ。出雲桃太に匹敵する護衛を招いていたのか」
モニターに映る四鳴家の代表、三角帽子を被った中年女性の黒鬼術士、四鳴葛与も監視カメラの映像を見て不利を悟っただろう。
五馬乂が扮する護衛、ミスターシノビは金髪を大銀杏のちょんまげに結い、白色の胴着と金色の外套を身につけ、一本足の高下駄を履くヘンテコな格好だが、灰色の蒸気鎧を着た〝鋼騎士〟を圧倒していた。
「うおおお。素手で長剣に勝てると、思うなっ」
「それを凌駕するのがハイド・ザ・リーブズだぜ。ラリアット!」
「あらばっ」
乂は、鋼騎士が大上段から切り下ろす長剣を半身になって避けつつ、右腕を喉首に叩きつけ、一人を気絶させて加速。
「「蒸気鎧によって強化された、我らがコンビネーションに屈服せよ」」
乂は上半身を振り子のように揺らして、相対する鋼騎士二人が突き出す槍二本を巧みな足運びで回避。
「連携が見え見えだ。二人いるのに機械任せで単調になっちゃ意味ないだろうよ。アックスボンバー! 片腕式背骨折り!」
「「ぐわああっ」」
左肘を顎元に撃ち込むことで一人を昏倒させ、更にもう一人を背中から抱えて膝に叩きつけて無力化した。
「プロレス漫画を読んだ甲斐があった。五人倒して残りも五人。折り返しだ!」
「おのれええっ!?」
乱戦が始まり、巻き込まれた監視カメラが破壊されて映像が消えるが、どちらが優勢かは見るまでもないだろう。
「孝恵代表! 我々は〝楽陽区〟の各地に〝鋼騎士〟を配置している。住民の生命が惜しければ、降伏してください」
モニターに映る四鳴葛与も窮地に追い込まれたか、一発逆転の言質を取ろうと悲壮な声をあげた。
しかし、代表室の重厚なデスクの内側に隠れながら、携帯端末を使ってオンライン会議に参加する獅子央孝恵は、頼りなさげな風貌とは裏腹に毅然と却下した。
「葛与さん。ミ、ミスターシノビを見ればわかるんだな? ぼくは五馬家と勇者パーティ〝N・A・G・A〟の協力を得たんだな。志多さんは見つけられなかったけど、他の地上部隊は会議招集と同時に、もう捕まえたんだな」
あとがき
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