第151話 幼馴染との共同作業
151
「ミスターシノビ見参!」
五馬乂は、冒険者組合の代表、獅子央孝恵を狙って突出した〝鋼騎士〟隊員を天井から奇襲。
「くらえ、瑞風螺旋脚!」
「な、なんて頓珍漢な格好、ぐはっ」
螺旋を巻く暴風をまとった回し蹴りで、灰色鎧の背から生えたオルガンパイプめいた排気口を叩き折り、蒸気機関を沈黙させ、装着者をも蹴り倒した。
「き、貴様、いったい何者だ!?」
「聞こえなかったかい。オレはミスターシノビ。孝恵のオッサンに雇われたアルバイトだぜ!」
乂は戸籍上、一〇年前に死亡し、五馬家の家督は弟が継いでいるので、堂々と偽名を名乗ってみせた。
「ヘイ、どうした? オレのワイルドとセクシーにびびったかい?」
乂が孝恵を背に問いかけると、残る襲撃犯九人はぶんぶんと首を横に振った。
「アルバイトくん。金髪に染めた上に、大銀杏のちょんまげに結うのは非常識じゃないか?」
「天狗面を被り、白色の胴着を着て、一本足下駄を履きながら、金色の外套を羽織る。職場の服装としてどうなんだ?」
「腰に差してる短剣、錆びているじゃないか。自分の武器くらい手入れしようよ」
「センスはともかく、ミスターシノビを名乗るなら、忍ぶ努力をすべきだ」
「職場にペットを連れ込むのは可哀想だよ」
正しくは、乂の素っ頓狂な偽名と肩書と服装に、隊長を除く八人で一斉にツッコミを入れていた。
「レアリイ? 相棒のアドバイスに従ってはみたが、やっぱりインパクト足りないんじゃないの?」
「えっ、最初はこの格好より凄かったのか。桃太君が止めてくれて良かった」
「にゃにゃっ(乂、真面目にやろう)」
乂は、デスク下に隠れてやる気に水をさす孝恵の態度に鼻白みつつも、右肩に乗せた三毛猫こと、三縞凛音にぺしぺしと肉球パンチを受けたことで、くすぐったそうに微笑んだ。
「そういうわけで、バイトの邪魔だ。ミソ・スープで顔を洗って出直してもらおうか」
「〝鋼騎士〟隊よ、遊ぶのはここまでだ。孝恵代表が雇った手練れの用心棒らしい。念のため距離をとって、先ほど拾った拳銃で射殺しろ」
ゴマ塩頭と巨大な両手斧が目立つ大柄な隊長、志多都十夢は、灰色の蒸気鎧を着た部下達へ冷静に射殺を命令した。
「デンジャラスッ。猫に当たったらどうするつもりだ。飛び道具を持った奴が相手なら、本気を出すぜ?」
「にゃっ(乂、ワタシの目の力を貴方に託すわ)」
乂の瞳孔が、あたかも猫のように縦に細くなる。
彼は三縞凛音の〝鬼神具〟、千里を見通し、未来すら演算する〝ホルスの瞳〟の力を借りることで、迫り来る銃弾の射線を予知して見切り、何十発という銃弾を軽々と避けた。
「あ、あたらない? そんな馬鹿なっ」
「あの風をまとう動きは、まさかっ?」
灰色の蒸気鎧を身につけた〝鋼騎士〟が動揺し、隊長の志多が危険性に気づくも、既に遅い。
「にゃにゃー(パワードスーツの弱点は首と、腹から背にかけての接合部だわ)」
「シャシャっ。幼馴染との共同戦線もいいもんだぜ。モチベーションがむんむん湧いてくる」
乂は足裏から風を発して、拳銃を乱射する先頭の〝鋼騎士〟隊員との距離を一息に詰めた――。
「くらいな。サメ子直伝、サメアッパー!」
「ニャニャー!?(ああもう、乂は女心がわかってない!?)」
あとがき
お読みいただきありがとうございました。
ブックマークや励ましのコメント、お星様、いいねボタンなど、お気軽にいただけると幸いです(⌒▽⌒)