第150話 ミスターシノビ、見参
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西暦二〇X二年六月八日。
オンライン会議のモニターに、カメラの映像が転送され、八大勇者パーティの代表達が固唾を飲んで見守る中。
四鳴家が送り込んだ〝S・E・I 〟の精鋭部隊、灰色の蒸気鎧を身につけた〝鋼騎士〟一〇人が冒険者組合の正門へと襲いかかった。
「動かないでください」
「関係者以外は、踏み入ることを許されていません」
警備員がわらわらと駆けつけて守ろうとするも、武装の差は明白だ。
たとえ一〇〇人集まったところで、警棒と軽装でどうにかなる相手ではない。
「舞台登場 役名宣言――〝鋼騎士〟! 邪魔をするな」
ゴマ塩頭の筋肉質な隊長、志多都十夢が、背部のオルガンパイプ型排気口から、赤黒い煙をたなびかせつつ突進。
両手に掲げた巨大斧を人間以上の力で振るうや、警備員達は重傷を負ってバタバタと倒れ、頑丈な門にもざっくりと切れ目が入って両断された。
「バカな。つ、強すぎるっ」
「正門が力づくで破られるなんて」
「だめです、突破されました!」
そして〝鋼騎士〟が冒険者組合本部へ侵入すれば、後は無人の野を行くが如しだった。
「侵入者アリ! 侵入者アリ! 職員ハタダチニ退避シ、最寄リノ安全設備へ退避シテクダサイ!」
「せっかく前の戦いで生き残ったのに。こ、殺さないでええ」
「たった半年でまたかよおっ、命がいくつあっても足りないぞ」
「雑魚には構うな。狙うは代表、獅子央孝恵の身柄だ。どけええ」
機械音声が警告を発する赤いライトの灯る廊下を、組合の一般事務員が逃げ惑い――。
「侵入者め、これ以上近づくなら発砲する!」
「相手は重武装だ。躊躇うな!」
本部の中に詰めていた警備員達が、〝鋼騎士〟を阻もうと立ちはだかり、拳銃を手に隊列を組んで応戦するも――。
銃弾は灰色の装甲に乾いた音を立てて弾かれ、薄い戦闘服にわずかな傷をつけるのが精一杯だった。
「俺達は〝鋼騎士〟。四鳴家の中でも生え抜きの鬼だ」
「啓介様よりいただいた我らの鎧は、日緋色金を使った特別製よ。三縞家が率いた〝C・H・O〟のサイボーグならばいざ知らず、ただの現代兵器など効きはしない」
「だが、今後を見据えて拳銃は回収しておくか」
残念なことに、警備員達は侵入者に対し傷一つ与えられずにノックアウトされ、逆に武器を奪われる始末だった。
「冒険者の相手は、冒険者がやる。うわあっ」
「パワーが違いすぎる。武器が壊れるっ」
「この数で負けるはずが、ま、負けたあっ」
次に一線こそ退いたものの、かつて迷宮探索で名を馳せた古強者が結集して挑んだが、これまた鎧袖一触とばかりに剣や槍で薙ぎ払われる。
冒険者組合本部の防衛線は、もはや完全に崩壊した。
「〝鋼騎士〟、なんて強さだ」
「六月一日の映像では、出雲桃太君が蹴散らしていたというのに」
「あの子は研修生といえ、〝鬼勇者〟三縞凛音と、〝剣鬼〟、鷹舟俊忠を倒した英雄だぞ。彼が強すぎるだけだ」
遂に代表室の扉が乱暴に開かれ、獅子央孝恵が映るカメラの前に、一〇人の刺客が入りこんでくる。
「せ、せめてノックはして欲しいんだな」
「失礼。隊長の志多都十夢だ。時間もないので降伏しろ」
「諦めなっ、もう代表を守る者はどこにもいない!」
隊長の志多が大斧を孝恵に向け、部下達が拘束しようと飛びかかるも。
「いるぜ、ここにひとり。ミスターシノビ見参!」
次の瞬間。高い鼻のついた天狗面をかぶり、三毛猫を肩に乗せて、白色の胴着の上に金色の外套を羽織った男。
出雲桃太の相棒こと五馬乂が、三毛猫に化けた三縞凛音を肩のせて、天井から颯爽と飛び降りた。
「くらえ、瑞風螺旋脚!」
乂は一本足の高下駄を履いた足に暴風をまとった蹴りを〝鋼騎士〟に見舞い、早速とばかりに襲撃者一人を叩き伏せる。
「な、なんて頓珍漢な格好、ぐはっ」
あとがき
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