第149話 クーデター、再び
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出雲桃太の殺害と日本国への反乱の罪で、四鳴啓介は次期代表の立場から一転、冒険者組合の除名決議にかけられることになった。
「そんな! わたし達〝S・E・I〟を冒険者組合から追い出そうなんて許されない!」
啓介に化けた〝式鬼〟ケルピーを操る〝黒鬼術士〟の中年女性、四鳴葛与は、獅子央孝恵の宣言を受けておおいに取り乱すも、日本国へのテロ計画の詳細情報が誰から漏洩したかを察した。
「朱蘭様。貴女は、甥である啓介様を裏切ったのですか?」
葛与は、三角帽子の下から覗く赤い瞳を憎悪に染めて、秘密の同盟者へ向けた。
「キハハハ。何を言うんだい、葛与。ワタクシは、裏切ったんじゃない。日本国をひっくり返そうとする〝S・E・I〟の野望を突きとめるために、敢えて口車に乗っただけ。全ては正義のためさ」
酒瓶を手にした恰幅のよい赤ら顔の女。一葉朱蘭はゲラゲラと笑った。
四鳴と一葉。憎み合いながらも、利害関係ゆえに共闘した呉越同舟の同盟は、最後の最後で決裂したのだ。
「四鳴家をのっとろうとした一葉家と〝J・Y・O〟に正義なんてあるものですか!」
四鳴葛与は、もはや言い逃れはできないと悟ったか。タネの割れた手品である式鬼をひっこめて、カメラが映す画面の真ん中に立ってヒステリックに叫んだ。
「獅子央孝恵様。そして会議にご列席の皆様。昨年、テロリスト団体〝C・H・O〟が世を傾けた時、四鳴家と〝S・E・I〟が率先して戦ったから、今の平穏があるはず。どうか、その事を思い出してください!」
しかし、オンライン会議のモニターに映る八大勇者パーティの重鎮の中で、彼女の言い分に賛同する者は一人としていなかった。
なぜなら先のクーデター騒動において、〝C・H・O〟と真っ先に戦ったのも、黒幕である鷹舟俊忠や黒山犬斗を倒したのも、出雲桃太とレジスタンスだ。
四鳴家にさしたる戦功はなく、戦後に次期代表と認められたのは、ひとえに一等の功績を持つ出雲桃太を協力員として迎えたからだ。
「葛与さん。だったら桃太君こそが評価されるべきなんだな。彼を断崖から突き落とし、日本中の発電所を破壊しようなんてテロを目論んでおいて、その言い分は通らないんだな」
「そ、それは、その。わ、わたしは」
冒険者組合代表の獅子央孝恵が、ふくよかな肉体を激情で震わせ、まるい腕をあげて指摘すると、葛与も思うところがあったのか両手で顔を覆った。
「残念です。実力行使は避けたかったのに、まさかクーデターを前倒しにすることになろうとは……。志多都十夢、役目を果たしなさい。〝鋼騎士〟部隊を率いて、獅子央孝恵の身柄を抑えよ!」
葛与が命じるや否や、孝恵校長が映る冒険者組合本部の代表室に緊急警報が鳴り響き、監視カメラの映像が転送される。
そこには、身の丈よりも大きい両手斧を担いだ、髪の薄いゴマ塩頭の筋肉質な隊長、志多都十夢を先頭に、灰色の蒸気鎧を身につけた勇者パーティ〝S・E・I〟の精鋭騎士一〇人が、武器を手に冒険者組合の正門へと殺到する光景が映し出されていた。
あとがき
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