第148話 青天の霹靂
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出雲桃太がクマ国の政治結社〝前進同盟〟の指導者オウモと出会った日と同じ、西暦二〇X二年六月八日。
冒険者組合の現代表である獅子央孝恵は、緊急会議を招集――。
パソコン通信によるリモート会議ながら、八大勇者パーティ代表の〝鬼勇者〟と各々の腹心ら数十人の前で、元妻である伊吹賈南から届けられた映像を公開した。
「四鳴啓介殿。仮にも冒険者組合の次期代表が、育成学校の生徒を襲ったのか?」
「そもそも出雲桃太が、外部協力員として勇者パーティ〝S・E・I 〟に所属したからこそ、貴方を次期代表として認めたのだぞ!」
「およそ正気とは思えない犯行だ!」
異界迷宮カクリヨの第六階層〝シャクヤクの諸島〟で起きた、焔学園二年一組への襲撃と、桃太の暗殺という映像の効果は絶大で、オンライン会議はたちまちのうちに四鳴家を糾弾する鉄火場と化した。
「し、四鳴啓介君、申し開きはあるかな?」
「公開された映像は、質の悪い捏造だ。わずか一週間では、第六階層と地上を移動できない」
モニターに映る白スーツの青年は、まるで人形のような無表情で抗弁したが――。
「い、移動は出来なくても、情報を送る手段ならあるんだな。たとえば、一葉家に伝わり、今は四鳴家も用いる〝勇者の秘奥〟のひとつ、〝式鬼〟ならば可能なんだな」
獅子央孝恵は、冒険者組合代表室のデスクにまるまるとした肉体を沈ませながらも、着実に彼を追い詰めつつあった。
「仮に情報の伝達が可能だったとしても、移動は不可能だ。この私、四鳴啓介が部下の、四鳴葛与と共に地上の屋敷にいるのが動かぬ証拠である」
画面の中の啓介は、窮地にあっても顔色を変えず返答した。
だからこそ、オンライン会議に集まったメンバーは気づいてしまう。
この冷静な男が、短気な四鳴家の主人であるはずかない、と。
「ざ、残念だけど画面を拡大したら、啓介君の髪に水草が絡んでいるのが見えるんだな。に、人間に化けるモンスターは何種か確認されている。四鳴葛与、隣にいるキミはケルピーを〝式鬼〟にして操り、啓介を演じさせているんだな?」
「言いがかりもはなはだしいっ。孝恵様は啓介様に代表の座を奪われるから、ゴネているだけでしょうっ」
啓介は、否、啓介に扮する〝式鬼〟を隣で操る〝黒鬼術士〟の中年女性、四鳴葛与は深々と被った三角帽子の下で冷や汗を流しつつ、誤魔化そうとしたが――。
彼女が口を開いたことが、なによりも雄弁に真実を語っていた。
「し、証拠は他にもあるんだな。この会議を始めた時から、もう警察も動いているんだな」
「キハハハ、葛与。アンタは四鳴のメッキ集団の中じゃ珍しく、気骨のあるヤツなんだ。いい加減認めたらどうだい?」
「朱蘭様、いったい何を……」
啓介の叔母である、赤ら顔の恰幅がよい女。一葉朱蘭は蒸留酒の酒瓶を片手にラッパ飲みしながら端末を操作して、次々とファイルを画面上に公開する。
そこには、新型工業設備ケラウノスをはじめとする、冒険者組合施設の不法な接収。先のクーデター被害者へ払われるはずだった見舞金や、福祉予算を含む公金の横領。といった様々な悪事に加え……。
『新型発電機関であり人工の鬼でもあるケラウノスを〝式鬼〟に変え、四鳴啓介の〝鬼神具〟、〝百腕鬼の縄〟で操って地上に侵攻、日本中の発電所を破壊して独裁政権を樹立する』
という、啓介が桃太達に告げた恐るべきテロ計画の内訳、その詳細が克明に記されていた。
「な、なんてことをっ!?」
「獅子央焔様がもたらした勇者の秘奥を、こうまで悪用するのか!?」
「焔様は、四鳴家がこんな連中と知っていたからこそ、〝勇者の秘奥〟を与えなかったんだ!」
獅子央孝恵は、オンライン会議の画面の中で騒然となる冒険者組合の重鎮を前に断言した。
「冒険者組合代表として、決を取りたい。出雲桃太君の殺害と、日本国への反乱を計画した罪により、四鳴啓介と〝S・E・I 〟を冒険者組合から除名する」
あとがき
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