第147話 オウモと前進同盟
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「出雲桃太クンだネ? 吾輩はオウモ。カムロの古い友人で、半世紀前から続く由緒正しきクマ国の政治結社、〝前進同盟〟の指導者だヨ。その子達を保護しても構わないかい?」
鬼の角を連想させる一対の巨大煙突がついた、幅二メートル、車高四メートル、長さ一五メートルに達するホバー走行する巨大車両。
その拡声器から届いた声は女性のものだったが、黒騎士同様にマイクによって加工されていた。
「すみません。俺はカムロさんから、貴方のことも、〝前進同盟〟のことも聞いたことがありません。直接お会いすることはできませんか?」
「わかったヨ。〝巫の力〟に選ばれし者、今をときめく英雄との会談は、こちらも望むところだネ」
三台もの巨大なホバー走行車両が並んで駐車する光景は心惹かれるものだったが、桃太の心中は複雑だった。
「出雲、壮観だね!」
「BUNOOO!」
クマ国の事情を知らぬ、サイドポニーの目立つ少女、柳心紺と彼女の式鬼ブンオーは、無邪気に笑って手や尻尾を振っている。
「仰天した。異界迷宮カクリヨの技術は底知れない。ねえ出雲君、クマ国ではああいうのが走っていたの?」
なんらかの違和感を感じ取ったのだろうか?
瓶底メガネをかけた少女、祖平遠亜は白衣を風になびかせながら首を傾げる。
「いいや、俺もはじめて見たよ。だけど、バスの中にいるのは、外国の人と、クマ国の人の両方みたいだ」
停車したバスの中から降りてきたのは、日本人とは違う大陸的な風貌の外国人が多かった。
毛がふさふさと生えた獣人や頭頂部に皿をのせた河童、鼻が高い天狗といったクマ国の住人が続き……。
最後にリーダーらしき、紫色のフルプレートアーマーを着た正体不明の人物が、整列した集団の先頭に立った。
「出雲桃太クン、お会いできて光栄だヨ。吾輩がオウモだ」
「オウモさん、俺は以前、黒騎士と地球上で交戦した経験があります。先ほど、子供達を保護すると仰いましたが、その後はどうするおつもりでしょうか?」
黒騎士は子どもたちをあやしていたが、桃太の指摘に困ったように兜に手を当てた。
「悪かったネ。奥羽以遠という日本国の官僚は知っているね? 子供達は、彼の伝手を使って地上へ返す。吾輩達は一葉家と〝J・Y・O〟に傭兵として雇われているんだ。四月頃の戦闘はその一環だヨ。キミがどこまで事情を知っているかはわからないが、勇者パーティ〝S・E・I 〟と敵対していることは信じて欲しい」
桃太は、オウモの発言からは悪意を読み取れなかった。
しかし、だからといって信用できるかは別だ。
雇い主である〝J・Y・O〟はもちろんのこと、オウモ自身もヘルメットで顔を隠し、声を変えているのだから。
はっきり言って、怪しさ満点である。
「だからこそわからないんです。カムロさんは、クマ国が地球と関わらないよう心を砕いていたはずです。オウモさん達は、本当にクマ国の政治結社なんですか?」
「うんうん、四鳴啓介に騙されたせいかネ? 慎重になったようでなによりだヨ。だが、出雲クン、その子達には休息が必要だヨ。一度ホバーベースの中で休ませたまえ」
桃太は、オウモの誘いに悩んだものの……。
「キミ達も怪我の治療が必要だろう、中に入るといい。シャワーもベッドもあるし、何より地上の様子を知りたいんじゃないか? 今なら二つの世界の地脈が安定しているから、ハッキングした映像を応接室のモニターで見ることも可能だ」
「「な、なんだって……!?」」
オウモの申し出に、桃太達はド肝を抜かれた。
あとがき
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