第146話 新たな蒸気マシン
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「ひょっとしてお前も、子供達を助けに来たのか?」
桃太の問いに応えるように、黒騎士は停止させたバイクのシート上でぐっと左の拳を掲げ――。
「戦闘機能選択、モード〝狩猟鬼〟。状況開始!」
合成音声で戦闘再開を宣言した。
「「GYAAAAAAAA」」
黒騎士は、右の義腕から引き出した一〇〇センチに及ぶ長銃を二連射し、血塗れの爪や牙で子供達を狙う、残りの悪鬼を狙い違わず仕留めてみせる。
「くっそ、カッコいい。それに異界迷宮内部でも動くバイクって凄い。俺も欲しい」
「出雲君、はしゃいでいる場合じゃない。〝狩猟鬼〟って、死んだ伏胤や三縞代表が変化したものと同じ、ソロモン七二柱の悪魔だよね?」
「あの人の右腕、サイボーグ技術を使っているっ。ひょっとしてアタシ達と同じ、勇者パーティ〝C・H・O〟の生き残り?」
桃太と、遠亜、心紺の三人がガヤガヤと騒いでいると――。
黒騎士は長銃を右の義腕に仕舞い、バイクシートから高々と跳躍した。
そして、まるでアイススケートのジャンプのようにくるくると回転しながら、三人の前に降り立ったではないか。
「!?」
桃太達は戦う気なのかと一瞬身構えたものの、黒騎士は鎧の隙間から白い旗を出して見せつけるように振った。
「こ、このパフォーマンスで、〝今から白い旗をお前達の血で赤く染めてやるぜ〟という宣戦布告はないよね?」
「……そんな、〝C・H・O〟の鷹舟副代表じゃあるまいし、大丈夫なはず。でも、怪しすぎて全く信用できない」
額に十字傷を刻まれた少年、出雲桃太と、瓶底メガネをかけた少女、祖平遠亜は、黒騎士を警戒したが――。
「よろいのひとすげええ」
「びゅーんてとんだよ。かっこいい」
「トータさん、だいじょうぶだよ。いいひとっぽい」
メカメカしい鎧男の派手なジャンプがウケたのだろうか?
子供達は娯楽に飢えていたのもあったろうが、怪人物を取り囲んでやんやと盛り上がった。
鎧の中にいる人もどうやら上機嫌らしく、子供達を抱えながら桃太達に向けて白い旗をぶんぶんと振っている。
「出雲も、遠亜っちもやめなよ。こっちのことを認識して白旗を振っているんだから、停戦信号でしょ。ってまだ何か来るよ!」
灰色鎧を身につけたサイドポニーの目立つ少女、柳心紺がバイクの後方を指さす。
土煙の向こう側から現れたのは、鬼の角を連想させる一対の巨大煙突がついた、幅二メートル、車高四メートル、長さ一五メートルに達する巨大車両だった。
「あれは、機関車? いや線路がないから、バスか!」
「ひとつ、ふたつ、三台もくるよ。う、浮いている?」
「すっごーい、ホバークラフトってやつ? 精密機械が使えない異界迷宮内をそんな手段で走行できるなんて!?」
そんな驚天動地のマシンが三台、土煙を切り裂きながら、採掘場の門前に現れたのだから、桃太達も驚きを隠せなかった。
そして先頭の蒸気マシンの拡声器から、女性らしき声が響く。
「出雲桃太クンだネ? 吾輩はオウモ。カムロの古い友人で、半世紀前から続く由緒正しきクマ国の政治結社、〝前進同盟〟の指導者だヨ。その子達を保護しても構わないかい?」