第142話 聖者の顔をした追い剥ぎ
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額に十字傷を刻まれた少年、出雲桃太。
瓶底メガネをかけた白衣の少女、祖平遠亜。
赤い八本足の虎、式鬼ブンオーを連れたサイドポニーの少女、柳心紺。
三人は、焔学園二年一組のいる第五階層〝妖精の湖畔〟を目指して転移門をくぐったものの、辿り着いたのは、四鳴啓介と勇者パーティ〝S・E・I 〟が占拠する第七階層〝鉱石の荒野〟だった。
「ひゃああっ、凄い土煙。見渡す限り一面の真っ赤な大地だ。俺たちが初めて発見した〝転移門〟だからか、地図にも載っていないね」
「幸い食料には余裕があるし、向こうに水を補給できそうな川も見えるけれど、どうやって第五階層に戻るか悩ましいわね。心紺ちゃんは見覚えある?」
「うーん、アタシは警戒されたのか入らせて貰えなかったんだ。でも〝S・E・I 〟に制圧されたとはいえ、神鳴鬼ケラウノスを封じた発電所の付近には、〝転移門〟があるはずだよ」
桃太達は探索を開始したものの、もうもうと吹き荒れる土煙のために視界が閉ざされ、真っ直ぐ進むのも困難だった。
「GRUUU……」
「BUNOO……」
その上、〝式鬼〟ブンオーの元となった野生のモンスター、黄色い八本足の虎の群れが徘徊していた為に、幾度も迂回を余儀なくされた。
そうして、第七階層〝鉱石の荒野〟を彷徨うこと六日……。
西暦二〇X二年六月八日の朝、桃太達は遂に人のいる施設を発見した。
しかし。
「な、なんでこんなところに子供がいるんだ?」
桃太一行は岩山から遠視鏡で偵察して、仰天した。
モンスター避けのためか、頑丈な金属の柵と扉に閉ざされた敷地内で、灰色の蒸気鎧を着た〝鋼騎士〟が鞭を振るい、小から中学生くらいの子供一〇人を無理矢理働かせていた。
少年少女達は、誰もがボロボロと涙をこぼしながら、地面に人一人が通るのもやっとの狭い穴をスコップで掘り進め、土をふるいにかけてキラキラと輝く石のようなものをより分けている。
「あそこでやっているのは多分、日緋色金の採掘だ。触るとひんやりして、太陽のように輝く金属で、地球上のあらゆる物質を超える硬さと粘り強さがあるんだって。〝鋼騎士〟の装甲にも使われているんだよ」
「柳さん、日緋色金が凄いのはわかったけど、年齢がおかしい。冒険者育成学校の入学資格は、中学卒業のはずだぞ?」
「そ、それはたぶんっ」
桃太の疑問に対して、心紺は目を伏せて言葉を濁し、遠亜が親友を気遣うように進み出て答えた。
「出雲君、四鳴家と〝S・E・I 〟は、日本国で最大規模の冒険者パーティだ。業務の一環として福祉事業にも力を入れている。でも、前々から悪い噂があるんだ」
曰く、――異界迷宮で怪我をした女性や年少の冒険者を保護すると騙して、私物や装備を奪い取っている。
曰く、――より重い病気や怪我を無理に演じさせることで、日本国により多額の補助金を申請させながら、本人には渡さず適当な理由で徴収している。
「それじゃあ福祉事業じゃなくて、詐欺と追い剥ぎじゃないか!?」
「出雲の言う通りだよ。そして、噂の中でも最悪なものが――。
〝S・E・I 〟は、亡くなった冒険者の遺族、身寄りのない子を保護という名目で拉致して、人知れず異界迷宮カクリヨで強制労働させている。
――というものだけど、真実だったみたい。アタシを第七階層に入れなかったわけだ。見られたくなかったんだね」
「テロリストに堕ちた〝C・H・O〟のクーデターで大勢の死者が出たから、あの子達はその遺族だと思う」
「これが、勇者パーティのやることか。こんなふざけた団体に、俺は協力させられていたのか。ぶっ飛ばしてやる!」
あとがき
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