第139話 紗雨の奮戦
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西暦二〇X二年の六月一日の夕刻。
出雲桃太が、異界迷宮カクリヨの第六階層〝シャクヤクの諸島〟で勇者パーティ〝S・E・I 〟と交戦して腹部を負傷し、断崖絶壁から転落して行方不明になった後――。
桃太の相方であった銀髪碧眼の少女、建速紗雨は、焔学園二年一組の研修生四八名を奮起させ、隊列を組んで転移門に突入。
第五階層〝妖精の湖畔〟にある冒険者組合の砦を目指し、濡れた岩石の転がる水場を移動していた。
「こういう岩陰は、待ち伏せに注意サメエ。水遁の術、えいっ」
「「GIGI!」」
紗雨が物陰に水を噴き出す石を投げ入れると、彼女の予想通り、性悪な妖精鬼ゴブリンの一隊が待ち伏せしていたらしい。
赤や緑の肌をもつ小柄な鬼は、紗雨らを子供と見て侮ったのか、錆びた小剣や棍棒を手に喜び勇んで襲いかかってきた。
「出雲が戻るまで、紗雨ちゃんとクラスメイトの皆はおれ達が守る!」
「「GYOEE!?」」
特注の兜から突き出たリーゼントが雄々しい林魚旋斧ら、厚い鎧を着込んだ重装甲の〝戦士〟達は、襲撃者達と正面から向かい合い、大剣や斧といったリーチに勝る得物で叩きのめした。
「さすが林魚、今日もリーゼントが決まって男前サメエ」
「へへへ。どんなもんだい!」
しかし、ゴブリン達を全滅させても、湿地帯に潜む怪物はまだまだいる。
「「GEKOO!」」
ギラギラと輝く六つの目と、ぶよぶよとした緑色の皮膚が特徴的な、全長一メートルはあろう人喰い蛙。ウォーター・リーパーの群れが、二年一組の生徒達を遠巻きに包囲しながら毒を吐きつけてきた。
これには防御力に長ける反面、動きの遅い林魚隊では対処ができない。
「二時の方向から大きな毒カエルが来るよ。紗雨が援護するから、関中君達は迎撃をお願いするサメエ」
「合点承知。出雲サン達が帰ってきたら、活躍を伝えてくださいよ」
関中利雄ら速力と機動性に長けた、軽装の〝戦士〟と〝斥候〟が二列目から飛び出して応戦。
紗雨の水術の支援を受けた関中が率いる遊撃部隊は、石つぶてや矢といった飛び道具を射かけて蛙の群れを退散させる。
「やったね。桃太おにーさんもきっとびっくりする腕前サメエ!」
「よっし、関中隊の伝説はここから始まる!」
されど湖に巣くう怪物は、飛び道具が通じる相手ばかりとは限らない。
「「KIKIKI!」」
矢を弾くほどに厚い甲殻に守られた、全長二メートルを超える巨大な蟹の化け物。オオバサミガニが一〇体、湖の中から出現して襲いかかってきた。
「湖の中からカニが出てきたサメエ。紗雨が囮で誘導するから、羅生君達は凍らせて、今日のご飯にするサメ!」
「ここが決め所だ。我々こそが、二年一組の主力だと他の生徒たちに見せつけてやれ」
紗雨が水術と幻で作りあげた身代わりで誘導するや、羅生正之ら〝黒鬼術士〟と〝白鬼術士〟の部隊が、氷雪の鬼術を十字砲火で浴びせて凍結し、夕食の材料をゲットした。
「へへっ、今夜はカニ鍋だ」
「えー、焼きましょうよ」
「まずは刺身だろうがっ」
二年一組は相も変わらず些細なことで揉めていたが、協力して巨大カニの解体に励む姿に、かつての深刻な断絶はもう見られなかった。
「紗雨ちゃん。凄いです。あのデコボコだったクラスを見事にまとめています」
「それに、なかなかの指揮ぶりではないか。一人ではさほど強くないが、支援能力は一級品。周囲の協力を得られれば存外にやる」
そして一行の最後尾を任されていたのは、担任教師である〝賢者〟矢上遥花と、視野の広さを見込まれた〝斥候〟の伊吹賈南だった。
あとがき
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