第13話 新たなる友?
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桃太を取り巻く竜巻が止まった時、彼が負った傷は瘡蓋となり、水面に映る衣服も大きく変わっていた。
(さっきまで灰色のツナギを着ていたはずなのに、今は頭から足下まで覆う黒装束を身につけている。額の十字傷と右目が隠れるように、ヘビの顔に似たお面を斜めにつけて、腰帯に黄金色に輝く短刀を差している。ヒビの入った勾玉は紐で左手首に巻きつけているのか……)
詳しい事情はわからないが、矢上遥花が、〝夜叉〟に変身した過程と、類似のプロセスを辿ったのだろう。
「シャシャシャ。いよッシャーっ! カモがネギ背負って、向こうから飛び込んできやがったっ」
桃太の内心を知ってか知らずか、五馬乂を名乗る黄金色のヘビが変じたお面は、我が世の春が来たとばかりに歓声をあげた。
「人間の肉体があれば何だってできる。早速迷宮内でエロ本探しと洒落込もうか。出雲桃太だっけ? 悪いな相棒、力を貸す代わり、お前の身体はオレの自由にさせてもらうぜ」
桃太には、ヘビお面の話が半分も理解できなかった。
それでも乂が彼を騙して、肉体を奪おうとしていることは――把握した。
「五馬乂。初めに言っておく。俺はエロ本探しに付き合ってもいいし、〝相棒〟の意見だって尊重したいけど、身体を明け渡すつもりはないよ。さっきは一度奪われたけど、主導権は俺にあるようだからね」
「へ?」
ヘビのお面は細目を丸く見開いて、あたふたと慌て始めた。
どうやら被り主の指摘が事実であると、気づいてしまったらしい。
「なんてこったいっ。毎日サメ子に追われながら、ようやく〝切り札〟を掴んだと思ったら、とんだハズレのババじゃないか。そ、そうだ、漫画で読んだぞ。地上にはクーリングオフって制度があるんだろ。契約は一旦ご破算にして……」
「サメッ、サメエ?」
乂が何やら都合の良いことをペラペラ喋り始めると、足元の河原から愛らしい鳴き声が発せられ、背びれと尾びれが小石の中からニュッと突き出した。
どうやら空飛ぶサメは、咄嗟に穴を掘って竜巻から避難したらしい。
「って、今ご破産にしたら、サメ子にお仕置きされるじゃないか。おい相棒、なんとか説得を手伝ってくれ!」
「いいとも相棒、生命を救われたんだ。それくらいお安い御用だ。でも」
桃太は首筋が泡立つ殺気を背後から感じ取り、河原に向き直った。
「AAAAAAAA!」
積み重なっていた川石が吹き飛んで、般若に似た鬼面を顔へ貼り付け、全長三メートルに及ぶ鬼女が姿を現した。
河原に潜んでいた魍魎とは異なり、矢上遥花が変じた〝夜叉〟は、半裸の肉体にコブラ蛇を絡みつかせた軽装にもかかわらず竜巻を耐え抜いたらしい。
「AAAAAA!」
彼女は鬼面から赤い霧と黒い雪を吐き出して、四本の手に四振の剣を形成し、ばらばらと降り注ぐ石の雨を粉々に切り刻みながら甲高い声で吠え猛る。
「彼女は矢上遥花。俺の恩人で先生なんだ。頼む、止めるのを手伝ってくれ」
「うへえ、物騒な先生だなあ。まあいい、あの女の匂いには覚えがあるし、ムカつくな。いいぜ、相棒。ぶっ倒すのは賛成だ。レッツファイッ!」
あとがき
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