第136話 更なるハカリゴト
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東の空に昇った太陽が照らす海原から一陣の風が吹き、戦場を覆っていた茶色い土煙が晴れる。
決着の後、断崖絶壁に面する南の丘陵に立っていたのは――、
額に十字傷を刻まれた少年、出雲桃太。
瓶底メガネをかけて白衣を着たショートボブの少女、祖平遠亜。
そして、四鳴啓介の呪縛から解き放たれた、サイドポニーの目立つ少女、柳心紺の三人だった。
桃太達の活躍で、焔学園二年一組を襲った一二人の〝鋼騎士〟部隊隊員は、身につけた灰色鎧を砕かれ、赤い八本足の虎という〝式鬼〟も失って、トリモチの白糸に塗れてぴくりとも動かない。
「「いやったああ!!」」
クラスメイト達は、異界迷宮カクリヨの第六階層〝シャクヤクの諸島〟からの脱出口、転移門を目指して移動中だったが、桃太達の戦果を見てめいっぱいの歓声をあげた。
「うおお、出雲と祖平がやったぞっ!」
レジスタンス時代からの戦友、リーゼント頭を高らかに掲げて両手をぶんぶんと振り――。
「出雲サンと祖平サンなら、必ず勝つって信じてましたっ!」
天然パーマの少年、関中利雄ら、一般家庭出身の研修生が感動の涙を流し――。
「き、肝を冷やしたぞ。寒門出身といえ、二人ともやるじゃないかっ……!」
七三分けの少年、羅生正之ら、八大冒険者パーティ縁の研修生達までが拍手喝采した。
「桃太おにーさんも、遠亜ちゃんも、無事だったサメ」
銀髪碧眼の少女、建速紗雨も、心労がたたったのか、ゴールである環状列石郡を前にへなへなと膝をついた。
「紗雨ちゃん、もう心配はありません。遠視の術で見るに桃太さんと祖平さん、柳さんに重い怪我はない。須口さんら七騎の鋼騎士も、あちらへ退くようです」
栗色の髪を赤いリボンで結んだ担任教師、矢上遥花が紗雨を抱き留め、背中を優しく撫でた。
「チッ、甘ちゃんどもめ。気を抜くのは早いぞ。あの四鳴啓介がこれで終わるとは思えん」
誰もが安堵の息を吐く中、昆布のように艶のない黒髪の陰気な少女、伊吹賈南だけが険しい目で桃太達を見つめていた。
「あはは。出雲と遠亜っちだけで、一二人もいた〝鋼騎士〟部隊を、三分かからずにノックアウトしちゃった。やっぱり敵に回したくないね」
「さすがは祖平。レジスタンスいちの知恵袋だ。俺は糸にまるで気づかなかったよ」
「心紺ちゃんがいないから、一番の称号はもらっておくよ。もう大丈夫、戻っておいでよ」
「BUNOOO……」
桃太と八本足の式鬼が笑顔で見守る前で、遠亜が手を差し伸べ、心紺が鼻をすすりながら手を取って、親友二人はひしと抱き合った。
賈南を除く、焔学園二年一組の生徒の大半が勝利を確信していた。その油断を突くかのように、北の森から一人の人影が転がり出る。
「あに様。いえ、トータさん」
それは、白い蒸気鎧を着た山吹色髪の少女、呉陸羽だ。
「リウちゃんじゃないか、怪我はない?」
「出雲君、待って……」
「その子も……」
遠亜と心紺が制止の声をあげようとしたが、わずかに遅い。
「〝時空結界〟発動」
桃太が陸羽に向かって歩き出した直後、四鳴啓介が一葉家から奪い取った〝勇者の秘奥〟、現実から時間と空間をズラす、〝時空結界〟を発動させる。
世界が灰色に染まり、ターゲットである桃太と陸羽、そして術者たる啓介以外の人間が、結界内から締め出された。
あとがき
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