第135話 啓介の呪縛を打ち破れ
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「見つけたっ。変な気配の源は、あれだ!」
瓶底メガネをかけた少女、祖平遠亜は、サイドポニーの目立つ親友、柳心紺のヒントもあって、灰色の蒸気鎧に身を固めた〝鋼騎士〟部隊の秘密を見抜いた。
「出雲君、四鳴啓介を見て」
桃太は一瞬、遠亜の言葉に戸惑ったものの、啓介がいる北の方角へ視線を動かすと、心紺達へと伸びる光輝く糸の存在に勘付いた。
「……そういうことか!」
四鳴啓介は〝鬼勇者〟の役名をいただく、八大勇者パーティの代表だ。
おそらくは強力な〝鬼神具〟を持ち、心紺ら〝鋼騎士〟部隊のメンバーを糸で操るような、何がしかの干渉を行っているのだろう。
「心紺ちゃってば、手がかかるんだから」
「ここから逆転だ。必ず俺達の手で取り戻そう」
桃太の感情のうねりに触発されたのか、〝巫の力〟が発動し、黒い瞳が青く輝く。
同時に彼の右手を包む衝撃の刃が、役目は終わったとばかりに消失する。
「聞いて。出雲は、〝C・H・O〟の三縞代表や鷹舟副代表を倒した男だ。慎重に攻めるよ」
心紺は桃太の声音から、彼の戦闘スイッチが入ったことに気づいて忠告したが――。
彼女の同僚一二人は、啓介が伸ばす糸に操られているのか、それとも慢心しているのか、手槍や剣を持って土煙の中へ突っ込んだ。
「柳、手心を加えるのはおよし。広範囲攻撃の草薙が使えなければ、英雄もただの〝斥候〟だ」
「目の色を変えるなんて、見え透いたこけおどしさ。衝撃の刃も維持できないんじゃないか?」
「私たち〝鋼騎士〟部隊なら簡単に押し潰せるよ」
「お手柔らかに」
桃太は煽られても気にせず、無難に受け流したが――。
「そこの〝白鬼術士〟も、足手まといのくせに、随分と大口を叩くじゃないか」
「へえ、私が足手まといだって。それは、聞き逃せない。出雲君、前衛と後衛を入れ替えるよ」
遠亜は桃太と入れ替えに飛び出すや、薬草袋を投げつつ杖で突いて爆発させた。
「この島で採れるカヤクバコノミかい? この程度の爆発じゃあ、私たちは倒せない」
「残念。この爆発は、こう使うのよ。鬼術・長巻改!」
カヤクバコノミが生み出す爆風を刃のように固めて薙ぎ払い、もうもうと渦巻く土煙の中から襲いくる〝鋼騎士〟隊員三人を、彼らがまたがる〝式鬼〟、八本足の虎ごと吹き飛ばした。
桃太が使う技は、素手に衝撃波をまとった二メートルほどの刃だが――。
遠亜の用いる術は、杖に縫い付けることで薙刀となり、全体で四メートルに達するほどにリーチが長い。
「遠亜っちってば、それは出雲の技じゃん?」
「心紺ちゃん、レジスタンス時代からずっと一緒だったんだ。真似くらいできるよ。出雲、隙は作った。あとは思うようにやって」
「さすがは祖平さんだ。悪いね、俺も含めて全員、彼女の手の中だったらしい」
桃太は先ほど土煙を起こした際に拾った石を投げつけて、断崖付近の低木に賈南が隠したトリモチ罠を作動させる。
茶色い土煙のせいで視界が狭まったところに、ダメ出しとばかりに吹き出した白い粘着性の糸が〝鋼騎士〟部隊の視界を奪い、足を取って動きを止める。
次の瞬間――。
「〝鋼騎士〟は、機動力が高くとも装甲が薄いのが弱点だ。我流・手裏剣」
「長巻改、連打!」
桃太が投じた衝撃波による麻痺礫と、遠亜の振り回す爆風の薙刀が一二人の冒険者を叩き伏せ、一二体の式鬼を破壊し――。
「「うわあああ」」
「「GYAAA」」
――心紺を含む〝一三本の糸〟を断ち切って勝負はついた。
あとがき
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