第134話 鋼騎士の秘密を見抜け
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額に十字傷を刻まれた少年、出雲桃太と、瓶底眼鏡をかけた白衣の少女、祖平遠亜は、四鳴啓介が指揮する灰色の蒸気鎧を着た〝S・E・I 〟の冒険者一三人を相手に、怯むこと無く挑みかかった。
「ここは断崖絶壁を背にした丘で、見晴らしも良い。だったらこうだ。我流・長巻!」
桃太は右手に衝撃波をまとい、二メートルに及ぶ長大な刃を形成して振り回し、〝鋼騎士〟部隊を牽制した。
背部ランドセルに蒸気機関を搭載したパワードスーツは確かに脅威だが、呉陸羽の白鎧と同様、半鎧部分の装甲面積は少なく、肌に張り付く薄い戦闘服が剥き出しになっている。
攻撃力と機動力に長ける反面、彼女達の弱点が意外にも防御力だと、桃太は最初から見抜いていた。
「こいつ、ただの素手じゃないね」
「とはいえ、こっちの方が手数は多いんだ」
「GUOOO!!」
桃太はリーチ差を活かして奮戦するも、〝鋼騎士〟部隊が振るう長剣や手槍にジャージの裾口を切られ、〝式鬼〟が放つ刃のような呪符に二の腕をえぐられ、赤い血が間欠泉のように噴き出した。
「出雲。白鬼術で怪我を治療するよ。無理はしないで」
「祖平さん、助かるっ。今から煙幕をはるっ」
桃太は遠亜の支援を受けつつ、足から衝撃波を放ち、土煙をたてて姿を隠した。
ついでに足元の草むらから、投石用の礫を一〇ほど拾ってポケットに忍ばせる。
(崖に近い低木には、賈南さんが隠したトリモチ罠がある。あの近くまで誘導できれば勝機がある)
桃太は〝鋼騎士〟部隊を引きつけるため、茶色い土煙の中から敢えて声を張り上げつつ、なだらかな丘陵を足先で叩いた。
(クマ国で学んだ衝撃操作と、焔学園で訓練した〝斥候〟技能の合わせ技で声を遠距離まで飛ばす。同時に音響探査の術も使えば、返事も受け取れるはずだ)
桃太を狙い、〝鋼騎士〟部隊の乗った〝八足虎〟が呪符の刃を無数に放つも、声だけでは場所を掴めないのか、辛くも回避に成功した。
「二年一組の皆、須口純怜という隊長が率いる七騎がそちらに向かっている。遥花先生は、先頭で誘導してください。視野の広い賈南さんと紗雨ちゃんはサポートを頼む。俺と祖平さんはここに残って時間を稼ぐ!」
案の定、矢上遥花と、建速紗雨は、すぐさま反対の声をあげた。
「桃太君、いけませんっ。〝S・E・I 〟の狙いは貴方です」
「桃太おにーさん、紗雨が今そっちに行くサメ。〝行者〟になれば、こんな奴らぶっ飛ばせるサメ」
桃太は、尊敬する恩師と愛する少女の提案に対し、改めて声を飛ばした。
「遥花先生は、クラスの皆をお願いします。紗雨ちゃん、少数で逃げるには〝斥候〟の方が小回りが効くんだ。ここは任せてくれ」
同じ頃、白衣の少女が祖平遠亜は、親友であるサイドポニーの少女、柳心紺が籠手と一体化した機械仕掛の弓から放つ矢を避けつつ距離を詰めていた。
「ああもう、遠亜っち、わかってよ。理由があるんだ」
「あるなら話して! 伏胤の時と同じ、ザエボスの気配がするのはどうして?」
「い、色々あるけど、今はまだ言えないんだよ」
「私は貴方の友達じゃなかったのっ」
遠亜は杖で殴りかかったところ、心紺が意味ありげに目線を送りつつ、パチパチと開閉するのに気がついた。
森の中では障害物に紛れて見えなかったが、心紺を含む一三人の〝鋼騎士〟が身につけた灰色の蒸気鎧には、啓介から細い光の糸が伸びている。
「見つけたっ。変な気配の源は、あれだ!」
あとがき
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