第133話 友との戦い
133
「出雲。アタシと戦って!」
「柳さんが、来るのか!」
額に十字傷を刻まれた少年、出雲桃太は、灰色の蒸気鎧を身につけ、赤い八本足の虎に乗ったサイドポニーの目立つ少女、柳心紺と激突。
「我流・直刀!」
桃太は、心紺が左の籠手と一体化した機械仕掛けの弓から放つ矢を素手で受け流しつつ、衝撃をこめた蹴りを虎に向かって放ち――。
「ブンオー、力を貸して。鬼術・土盾!」
「BUNOOO!」
対する心紺は、赤い〝八足虎〟が蹴り砕いた地面の土と石を固め、即席の盾を作って桃太の足技を受け止める。
「〝式鬼〟とのコンビプレーで防御するのかっ。柳さん、先の戦いから更に腕をあげたね!」
「えへへ、この子はブンオーって言うんだ。アタシも出雲や遠亜っちに負けたくないからねっ。……おっと、ヤバッ」
桃太と心紺は拳と矢を幾度か重ねるも、横合いからネムリキノコの胞子を詰めた袋が飛来するのを感じ取り、弾けるように距離をとった。
赤い霧が一瞬たなびくも、断崖に近い立地だからか、潮の匂いが強い海風に吹かれて消える。
「なぜ? 心紺ちゃんが、どうして襲ってくるの!」
二人の勝負に割って入ったのは、瓶底眼鏡をかけて白衣を着た少女、祖平遠亜だ。
彼女は桃太の隣に駆けつけ、木杖と別の薬草の入った皮袋を手に、親友だった心紺へ問いかける。
しかし質問に答えたのは心紺ではない。ようやく血の止まった鼻を押さえながら森を抜けてきた、オレンジ色髪の青年、四鳴啓介だった。
「どうして、だと? 日本国を革命する為には、先の戦いで〝C・H・O〟を討った、偽りの英雄、出雲桃太が邪魔だからだ。〝鋼騎士〟部隊に改めて命じる。柳と第三から第六班は必ず討ちとれ! 須口と第一、第二班は迂回して南にある転移門をふさげ。目撃者は一人残らず仕留めるんだ!」
啓介の命令に従い、心紺を含む一三人が桃太と遠亜を一定の距離を保ちつつ輪のように包囲。
須口という名の、ウェーブのかかった長髪の女性を中心とした七人が、二年一組のクラスメイトを追撃するようだ。
「純怜先輩っ。あんな奴に操られるままでいいんですかっ?」
「心紺。啓介は確かにあんな奴だけど、貴方以外の〝鋼騎士〟部隊は、あいつに借りがあるんだ。貴方も自分の心にウソをついちゃ駄目だよ」
「……心紺ちゃん。お家の事情かと思っていたけれど、それだけじゃないの?」
柳心紺と須口純怜が交わす意味深な会話に、遠亜は耳をそばだてていたが、桃太にそんな余裕はなかった。
(まずい、あれだけあった罠をもう突破されたのか。さっきは、初見殺しが決まっただけだ。この人達は強い)
伊吹賈南が、退路確保のために仕掛けてくれたトラップも、そろそろタネ切れだ。
残っているのは、断崖付近に自生する低木に隠された、わずかなトリモチ罠くらいだろう。
(柳達が乗っている赤い〝式鬼〟が、リウちゃんと図書館で出会った日に戦った〝八足鬼〟と同じだとすれば……、レジスタンス参加者はともかく戦闘経験の浅い他の研修生じゃ勝ち目がない)
桃太は傍らで杖を構える戦友、遠亜に目配せした。
「出雲君、関中君や羅生君達を先に行かせるの?」
「ああ、その方がいいと思う」
遠亜は瓶底メガネの奥、黒い瞳を細めて、柔和に微笑んだ。
「私は残るよ。貴方のことを信じてる。それに、心紺ちゃんの相手は私だ」
「頼りにしてるよ、祖平さん。柳さんをお願い。力と知恵を貸してほしい」
眼鏡のガラスが、空と海から射す陽光を受けてキラリと輝く。
「あてにしてくれて構わない。〝鰐憑鬼〟に堕ちた伏胤の時と同じ、強大な鬼の気配がするんだ。〝鋼騎士〟部隊だっけ? 心紺ちゃん達は、あのバカボンボンに何かされている。必ず仕組みを見抜いてみせる」
あとがき
お読みいただきありがとうございました。
ブックマークや励ましのコメント、お星様、いいねボタンなど、お気軽にいただけると幸いです(⌒▽⌒)