第130話 死地からの脱出
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出雲桃太の在籍する焔学園二年一組は――、八大勇者パーティ縁の生徒と、その横暴に反発する一般家庭出身の生徒の間に、ずっと深刻な溝を抱えていた。
「羅生? 六辻家の下請けパーティか」
従来からの亀裂が、生命の危機を前にして取り返しのつかない断絶となる、まさにその時。
「悪いが、四鳴家が担う〝S・E・I 〟以外の勇者パーティは、日本政府同様に滅ぼすと決めていてね。そもそもクーデター計画を知ったお前達を生かしておくわけにはいかないだろう? 当然皆殺しだ」
「「そんなっ!?」」
四鳴啓介が鼻から血を垂れ流しながら発した、心無い虐殺命令によって――。
七三分けの優等生、羅生正之らクラスメイトの半分が四鳴啓介と〝S・E・I 〟に抱いていた幻想は、跡形もなく消し飛んだ。
「皆、それぞれの事情はあると思う。でも、今は生き延びるために力を貸してほしい!」
「サメエ、一緒に逃げるサメエ!」
それ故、間髪入れずに響いた、出雲桃太と建速紗雨の叫びが、二年一組の亀裂を埋めた。
「ちいっ。おれ達はこの一ヶ月間、同じ釜の飯を食った矢上先生と、紗雨ちゃんに協力するんだ。勘違いするなよ」
「わけわかんないけど、殺されるなんて真っ平よ。出雲君に従うわ」
焔学園二年一組の五〇人は、眼前の脅威に対抗すべく、今度こそ一丸となった。
「キシシシ、どこへ逃げようというんだ。〝鋼騎士〟部隊は、あのゴミどもをぶち殺せ」
「「処分開始!」」
「「GYAAA!」」
八本足の赤い式鬼に跨り、灰色の蒸気鎧を着た軍団は、土煙をあげてキャンプ地に向かって突撃する。
「出雲桃太め。ロバ野郎が持つ、唯一の脅威だった大技、草薙を消費した今、恐れるものなど何もない。我が正義の前にひざまずけええっ」
啓介が高らかに勝利宣言した、次の瞬間。
「うわあああ!?」
「GYUOO!?」
灰色の蒸気鎧を身につけた騎兵は、ある者は光輝くロープにひっかかって宙吊りとなり、ある者は足元に出現したトリモチをべちゃっと踏んで転倒した。
「な、何が起こったのだ?」
「ざーこざこ、雑魚カスがあ。妾が呑気に寝こけていると思ったか? モンスターの襲撃に備え、このキャンプ地はとっくに要塞化しておるわ!」
目を白黒させる白スーツの青年を指差して、昆布のように長い黒髪が特徴的な痩せっぽちの少女、伊吹賈南が腰に手を当て高笑いをあげる。
「あの罠は、俺達が授業で作ったやつか」
「賈南ちゃん、凄いサメ! 映画みたいにバッチリ決めたサメエ!」
桃太達は一ヶ月の研修授業の間、〝シャクヤクの諸島〟に出没するモンスターから身を守り、あるいは獲物として狩るために、足くくりの罠やトリモチ罠といった様々な罠を製作した。
「アハハ。八岐大蛇を退治すると吹かしたと割には、情けないのおっ」
賈南はクラスメイトが手作りした罠を絶妙な配置で仕掛け、更には〝斥候〟のスキルを生かした幻惑の鬼術で、キャンプ地周辺の景色に溶け込むよう偽装していたのだ。
(賈南さんは、モンスターすら足止めする罠を敷き詰めたのか。殺傷力は低いけど、簡単には突破できないはず)
賈南の思わぬ助成を得て、桃太は安堵の息を吐いた。
「みんな、包囲網を抜けて、第六階層から脱出するぞ。我流・長巻!」
「逃がすものか、うわああっ」
桃太は、腕にまとった衝撃波で〝鋼騎士〟の追撃を阻みつつ、キャンプ地からクラスメイトを退避させた。
あとがき
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