第129話 二年一組、亀裂の行方
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「啓介さん……」
桃太は〝C・H・O〟を歪めた黒山犬斗を倒した後、地上で真っ先に迎えてくれた四鳴啓介に感謝していた。
「夢が大きいのは良い。だけど、日本中の発電所を破壊するとか、世界征服するとか、はちゃめちゃもいいところだ。正気に戻ってくれ」
だから、一縷の望みをかけてオレンジ髪の白スーツ青年を説得しようと試みたが――。
「知った風な口を聞くな、ロバ野郎。サラブレッドたる我々にとって、お前は迷惑なんだよ、八大勇者パーティと関係のない寒門の木っ端が目立つんじゃない。ずっとずっと目障りだったんだ。冒険者組合の中では、私を中継ぎにして、次の代表にお前を据えるなどという動きもあるが、見過ごせるものか」
残念なことに、啓介はもはや取り返しがつかないほどに〝鬼の力〟の狂気に汚染されていた。
「出雲桃太。次期代表の立場が決まった以上、客寄せパンダは用済みだ。真の仲間ではないお前は追放、いやクビだ。事故として処理してやるから、ここで死ぬがいい!」
啓介は白スーツの袖から、光り輝く糸のようなものを発して長い鞭のようにしならせ殴りつけてきた。
しかしながら、〝C・H・O〟との戦いで銃弾だのレーザーだのと交戦した桃太にとっては、見え見えの攻撃だ。
「啓介さん。俺は〝S・E・I 〟から、一度も給料を受け取ったことがない。追放? クビ? 知ったことか。アンタの仲間になった覚えなんてない。そのフザケた計画は必ず止めて全部地上でぶちまけてやる!」
桃太は鞭を潜り抜けながら啓介を一喝し、彼の鼻っ柱を殴りつけた。
「ぎゃんっ。な、殴ったな。せ、世界皇帝たるこの私の顔に傷をつけた罪は重い。他の連中がどうなってもいいのか?」
啓介は鼻血を垂れ流し、痛みに顔を歪めながら糸を繰り出すも――。
「四鳴代表。貴方と勇者パーティ〝S・E・I 〟がやろうとしていることは、先の〝C・H・O〟と同じ、日本国へのテロであり、クーデターです」
焔学園二年一組の担当教師であり、〝C・H・O〟を倒したレジスタンスの指揮官でもあった矢上遥花は、生徒達の治療を終え……、リボンで糸を迎撃しつつ、桃太の背中を守るべく寄り添った。
「サメッサメエ。桃太おにーさんを利用するだけ利用して切り捨てようだなんて、〝S・E・I 〟は嫌らしいサメ」
「勇者パーティの風上にも置けないな」
「〝C・H・O〟の三縞代表には〝鬼の力〟を止めるという理念があったけれど、四鳴代表にあるのは私欲だけ。私は出雲につくよ」
建速紗雨、林魚旋斧、祖平遠亜ら、元レジスタンスメンバーは言うまでもなく、桃太に賛同し、灰色鎧を身につけた〝S・E・I 〟隊員と刃を交えていた。
「何が勇者パーティだ。こいつら、〝C・H・O〟が起こした、あの悲劇を繰り返すつもりか!」
「みんな、出雲サンに味方するぞ!」
他にも〝C・H・O〟のクーデター被害に遭った者や、八大勇者パーティに反発する者など、クラスメイトの半分が桃太の支持を表明する。しかし――。
「四鳴様、おれは羅生正之といいます。こちらのグループに交戦の意思はない。降伏する!」
「そうよ。テロは怖いけど、私たちは学生なのよ。勝てるわけないじゃない!」
その一方で、羅生ら八大勇者パーティ縁の研修生や、日和見の研修生など、クラスの半分は両手をあげて、四鳴啓介の元へ向かった。
元々あった二年一組の亀裂は窮地をきっかけに広がり、決定的な断絶となってしまった……かに思われた。
あとがき
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