第127話 四鳴啓介の野望
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「今からノーコントロールの衝撃波で、ガスをぶっ飛ばす。みんな、伏せろっ。〝生太刀・草薙〟!」
額に十字傷を刻まれた少年、出雲桃太はジャージ服に包まれた右腕を伸ばして手刀を掲げ、キャンプ地の上空に漂う赤黒いガス雲に向けて薙いだ。
今回、彼が放った必殺技は、普段の精密なコントロールを放棄し、敵味方識別効果も防御貫通効果もない、ただ荒々しいだけの衝撃波だ。
引き換えに半径二メートルという射程制限に囚われることなく、友人達を害する赤黒いガスをまとめて吹き飛ばすことに成功する。
「なあに、もう出発なの? それとも、モンスターでも襲ってきた?」
「こ、これはいったいどういうことだ? あのひとたち、八本足の虎に乗っているぞ?」
ネムリキノコのガスで眠っていた、ジャージ姿の研修生達も騒ぎの大きさに目を覚まし、まぶたがくっつきそうな目を開けるや、驚きのあまり呆然とした。
なぜなら焔学園二年一組のキャンプ地は、二〇人の冒険者らしき集団に包囲されていたからだ。
「あの雷の紋様は、〝S・E・I 〟。四鳴家のパワードスーツ部隊か。しかも、〝式鬼〟まで使っているのか?」
桃太が観察すると、二〇人の冒険者は呉陸羽の蒸気鎧に似た、オルガンパイプとランドセルのついた灰色の鎧を着込むばかりか……。
彼女と出会った日に交戦した、白い〝八足虎〟とは色違いの、真っ赤な〝式鬼〟に跨っていた。
(リウちゃんは居ないようだけど、顔ぶれに、俺が泊まっている〝ひので荘〟の警備員が混じっている。……それに、あのサイドポニーは柳じゃないか!)
桃太はかつてレジスタンスで共に〝C・H・O〟と戦った戦友、柳心紺が参加していたことで、大きなショックを受けた。
「チッ。回数制限のある〝生太刀・草薙〟を切らせただけ上出来か。大人しく、眠っていれば良かったのに」
そして、勇者パーティ〝S・E・I 〟の部隊中央に立っているのは、白スーツの胸ポケットに挿した赤い薔薇が目立つ、オレンジ色の髪をツーブロックにまとめた青年、四鳴啓介だった。
「啓介さん、会いにきてくれたんだ。まだ夜明け前で、授業も始まっていないよ」
「私には〝様〟をつけたまえ、出雲桃太。昨日、冒険者組合総会で、次期代表の指名を受けた。夏がくれば名実と共に、私がこの国の支配者になる」
額に十字傷を刻まれた少年、出雲桃太と、オレンジ色髪の白スーツ青年、四鳴啓介は正面から向き合った。
「啓介さん。次期代表の指名を受けたことをお祝いするよ、おめでとう。でも、冒険者組合代表は、日本の支配者じゃないよね?」
桃太が敢えて敬称をつけずに、啓介へ挑発的な疑問をぶつけたのには理由がある。
桃太の背後では、栗色の髪を赤いリボンで結んだ女教師、矢上遥花と、銀髪碧眼の少女、建速紗雨らが、研修生達を苦しめるガスの後遺症を治療していたからだ。
逃げるにせよ戦うにせよ、二年一組のクラスメイト達が回復するまでの時間を稼がなければならない。
「キシシシ。英雄と持ち上げられようとも、所詮は物知らずのロバ野郎か。我々サラブレッドが支配する、冒険者組合の持つ莫大な利権を知らないらしい」
桃太の思惑を知ってか知らずか、あるいは勇者パーティ〝C・H・O〟の代表、三縞凛音のように天然なのか、桃太との会話に付き合ってくれた。
「そうだ。冒険者組合の圧倒的な政治力と、四鳴家のグループが持つ商業力に加え、第七階層〝鉱石の荒野〟に建てられた工業プラント〝神の雷塔〟があれば、無敵の軍団が誕生する。そして私、四鳴啓介は、日本国を、いや地球を統べる世界皇帝となる!」
あとがき
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