第126話 未明の奇襲
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西暦二〇X二年の五月。
出雲桃太と、冒険者育成学校〝焔学園〟二年一組の研修生達は、第六階層〝シャクヤクの諸島〟にて、実地研修に勤しんだ。
「地球にはない植物に触れて、動物を狩り、見知らぬ人と出会う。これが冒険。焔学園に転入して良かった!」
今をときめく話題の英雄がいると、研修中に他冒険者パーティの見学や、時には女性冒険者からラブレターなどを貰う機会もあり、桃太は喜んでいたのだが……。
「おい、出雲。デレデレと鼻の下を伸ばすんじゃない!」
リーゼントが雄々しい戦友、林魚旋斧から後頭部にチョップをくらい――。
「出雲サン。英雄色を好むのは結構ですが、ほどほどにしないとダメですよ」
新たに仲良くなった天然パーマの級友、関中利雄には真顔で心配され――。
「度し難い浮気者め。いつ刺されてもいいように、常に治癒薬を携帯し、腹には研修のしおりを巻いておけ!」
彼を嫌っているはずの、七三に分けた髪と細フレーム眼鏡が印象的な、八大勇者パーティ支持派閥の生徒、羅生正之に、授業で製作した血のように赤い色合いの、瓶入り高級治癒薬を手渡されて忠告を受けた――。
「俺が浮気者って、どういうことさ。祖平さん、変な噂でも流れているの?」
桃太はやむをえず、レジスタンスで参謀役を務めた瓶底メガネをかけた女生徒、祖平遠亜に相談した。
「うーん。出雲君は、二年一組の皆には、矢上先生か紗雨ちゃんのどちらか、あるいは両方と交際しているって、思われているからね」
「なんてことだ。でも遥花先生のことは尊敬してるから光栄だし、紗雨ちゃんと噂になっているのも嬉しいなあ」
「出雲君って、こういうところは残念よね」
ともあれ、一ヶ月の実地研修は順調に進み、全課程を修了。
桃太達は、採取した薬草から希少な高級治癒薬を作ってお土産をつくり――。
関中が中心となって、収穫した作物や狩猟したモンスターの肉を干したり、燻製にしたりして、帰路の携帯食料を準備した。
最後の日は、余った薪を集めてキャンプファイヤーとバーベキュー、ダンスパーティで締めて、実地研修は最良の結末を迎えた、かに思えた。
「紗雨ちゃんの水着を見れなかったのだけが残念」
「矢上先生の水着姿、いつか見たいよなあ」
男子がそんな無念を呟きながら床に就いた翌日。
西暦二〇X二年の六月一日の明け方。
テントの中で眠っていた桃太は、違和感で飛び起きた。
「……風の匂いが、おかしい!」
「う、むにゃ」
「ぐう」
桃太がテントを飛び出すと、天幕のおよそ三メートル上空が、なにやら赤黒い霧のような雲に覆われていた。
霧の影響だろうか、寝袋にくるまった研修生達はもちろん、入り口で見張り番についていたはずの林魚や関中まで完全に寝入っている。
「これは、モンスターじゃない。人間の奇襲か?」
桃太が異常に気づくと同時に、少し離れた天幕から眠気を吹き飛ばさんばかりに、大きな銅鑼の音が響いた。
「桃太おにーさん、起きてサメエ!」
銀髪碧眼の少女、紗雨が寝巻き代わりのジャージ姿で、榊のような枝を手に浄化の祝詞を口ずさみながら舞い――。
「ネムリキノコから生成されたガス攻撃です。皆さん、敵襲です!」
栗色の髪を赤いリボンで結び、はち切れそうにセクシーな肉体をジャージに包んだ女性教師、遥花がオタマで銅鑼を叩いていた。
「紗雨ちゃん、遥花先生。聞いてくれ!」
桃太は、二人の声を聞いた瞬間に、ためらいも迷いも投げ捨てて右手をかかげた。
「今からノーコントロールの衝撃波で、眠りガスをぶっ飛ばす。みんな、伏せろっ。〝生太刀・草薙〟!」
あとがき
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