第124話 みんなでお料理パーティ
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「それでは、今日のお昼は収穫した作物と、狩猟したモンスターのお肉を使って、お料理をしましょう」
「エッ」
担任教師の矢上遥花が、大きな胸を弾ませて調理実習を指示した途端、出雲桃太は額に十字傷を刻まれた顔を青くした。
「遥花先生。ま、待ってください。いきなり言われても準備が――」
「出雲君、大丈夫よ。こんなこともあろうかと、味噌と醤油、他の調味料も、鬼術で発酵を促進させて似たものを作ってあるわ」
「エエっ」
驚くべき事に、白衣を着た戦友、祖平遠亜が、瓶底眼鏡をキラキラ輝かせながら壺に入った調味料をあちこちに配りはじめ――。
「うっす。サンキューす。皆で食べるんだから、鹿鍋に挑戦するかあ」
「エエエっ」
林魚旋斧は、リーゼント頭を青空に高々と掲げながら、シカ型モンスターの肉を小器用に大ぶりのナイフで薄切りにして、紅葉のように透き通った赤い肉を持ち込んだらしき大鍋で炒め始め――。
「そろそろ携帯食料も減ってきたし、明日以降の備えも必要でしょう。ぼくはウサギ肉をいぶしてジャーキーを作ります」
「エエエエっ」
天然パーマのクラスメイト、関中利雄が石を積んだりドラム缶をセットしたりと燻製装置の製作にかかり――。
「……手伝おう。この変わった鳥をさしみにして食べたいが、雑菌が怖いからな。まずは表面をいぶし、タタキにして試してみたい」
「貸しひとつ、っすよ」
「エエエエエっ、本当に!?」
普段の対立もどこへやら、七三分けの優等生、羅生正之が作業を手伝い――。
他の生徒達も魚を焼いたり、野菜を刻んだりと、それぞれ料理に取りかかり始めた。
「アハハ、装甲ハクビシンが何するものぞ。殴る! 砕く!! 叩き潰す!!! ミンチにしたあと香草を混ぜて焼けばハンバーグの完成よおっ!!!!」
「エエエエエエエエエっ。賈南さんまで出来ちゃうの!?」
そして、いかにも家事が不得手そうな気配をぷんぷんさせる、昆布のごとき艶のない黒髪の少女、伊吹賈南までがそれっぽい調理を始めたではないか。
「……料理ね、料理。リッキーは得意だったなあ」
「そう言えば、出雲サンはどんな料理がお得意なんですか?」
「か、カップ麺にお湯を注ぐことかな?」
「おい待て。まさか仮にも冒険者なのに、料理が出来ないのか? サバイバル研修の時はちゃんとやれていただろうがっ!」
桃太は調理場と化したキャンプ地に所在なく立っていたところ、テキパキと作業を進める関中と羅生に尋ねられ、だらだらと冷や汗をかいた。
彼は実家生活が長く、寮生活の食事もコンビニのおにぎりやパンで済ませていたため、自炊は適当だった。はっきり言えば、下手くそだったのである。
「ま、串焼きくらいなら、やればできるさ。あいたっ」
「サメーっ。桃太おにーさんは紗雨と一緒にしよう!」
桃太の包丁を握る危うい手つきを見て、銀髪碧眼の少女、建速紗雨がすっとんで来たのは言うまでもない。
あとがき
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