第123話 狩猟
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桃太達は異界迷宮カクリヨの第六階層〝シャクヤクの諸島〟で、森から飛び出したモンスターの襲撃を受けた。
角の生えた巨大ウサギ、二足歩行の巨大シカ、装甲めいた毛皮を持つハクビシンら三〇体に及ぶ怪物の群れには、槍のごとき長いくちばしと七色の羽を持つ、大きな怪鳥が混じっていた。
「あれは、〝錐嘴鳥〟!? 以前戦った、〝式鬼〟の元になったモンスターか!?」
桃太が慌てて農地を飛び出し、林魚や関中ら〝戦士〟の役名を担う生徒たちが壁となり、羅生ら〝黒鬼術士〟や、祖平ら〝白鬼術士〟が迎撃体制を整えようとするも、到底間に合わない。
「まずい、皆、逃げてっ」
「出雲桃太よ、誰に逃げろと言っている? 野生の鬼獣め、妾との格の違いを教えてやろう。前線に立つだけが〝斥候〟ではないわあっ」
「「GYAAA!?」」
しかし、ここで意外な才覚を発揮したのが、昆布のように艶のない黒髪が目立つ少女、伊吹賈南だった。
群れから突出した〝錐嘴鳥〟の翼が、枝と枝の間に張り巡らされたロープに触れるや、賈南が木々の陰に仕掛けたらしい設置弓から、矢が音を立てて放たれた。
「「GYAAA!?」」
槍めいたくちばしをもつ怪鳥の生命力は強く、矢が突き刺さっても死ぬことはない。
しかし、錘のついた矢の存在が邪魔となり、飛行速度が目に見えて低下。
「いまだっ。我流・手裏剣!」
「森は焼くなよ、鬼術・氷弾!」
桃太の投げる石礫と、羅生ら〝黒鬼術士〟班が放つ氷弾の一斉射撃を受けて、怪鳥は墜落した。
「GYAAA……」
〝錐嘴鳥〟は、後方から押し寄せる魔獣の群れに哀れにも踏み潰され、地上のシミとなって消える。
そして、賈南の罠はまだまだ終わらない。
「GUOOO!」
巨大ウサギは土煙をあげて飛び跳ねるも、落とし穴にすっぽりとハマり。
「SYAAA!」
二足歩行の鹿はツノを突き出して突進中に、足くくり罠にガッチリと足を絞められ。
「GRUUU!」
装甲ハクビシンは突進中に、トリモチ罠にひっかかって身動きが取れなくなる。
「見たか。これが妾の実力よっ」
賈南は、仕留めるまでは至らずとも、三〇体もの怪物を一網打尽に縫い止めてみせたのだ。
「ひょっとして、賈南さんが紗雨ちゃんや遥花先生と離れて作業していたのはこの為か!?」
「伊吹さんの提案で、防衛用の罠を仕掛けていたんです。この手の罠は彼女の十八番なんです」
「むふー。賈南ちゃんは、狩猟がとっても得意なんだサメ。紗雨も勉強になったサメー」
「あはは、そう褒めるな。妾はデキる美少女だからな」
賈南がどうだとばかりに両手でピースサインを見せつけるが、この活躍には、彼女を嫌悪する生徒たちも頭を垂れざるを得なかった。
「あの子に喧嘩を売るのは、やめておこう」
「迷宮探索中に罠を仕掛けられるなんて、ぞっとしないわ」
「おい、外野ども。言いたいことはハッキリ言え!」
かくして伊吹賈南がイジメの対象となりかねなかった問題は、クラスメイト達が彼女の活躍を目撃したことで解決。
「ウサギとシカは、バラせば食えるよなあ」
「ハクビシンも血抜きして、下処理次第ではいける」
「「さあやろうか」」
共にピンチを乗り越えたことにより、一般家庭出身の研修生と八大勇者パーティ縁の生徒達の断絶も、少し埋まったかに見えた。
しかし、何もかもが順調とはいかず、桃太に予想外の試練が訪れる。
「それでは、今日のお昼は収穫した作物と、狩猟したモンスターのお肉を使って、お料理をしましょう」
「エッ」
遥花が調理実習を指示した途端、額に十字傷を刻まれた桃太の顔が青くなった。
あとがき
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