第122話 異界迷宮のテラフォーミング
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西暦二〇X二年の五月。
出雲桃太ら、焔学園二年一組の生徒達は、異界迷宮カクリヨの第六階層〝シャクヤクの島〟で、地球化を手伝う実地訓練を行った。
「まず、基本となるのは採取です。
盆地で自生しているシャクヤクに似た花からは、鎮痛・抗菌・止血と様々な効果を発揮する、高性能の治癒薬が作られています。まるで血のように赤い色合いからレッドポーションと呼ばれ、瓶やパウチに入れられて、高値で取り引きをされているんです。
また森に生息する紫色の木の樹液は、迷宮のモンスターにも効くトリモチ罠の材料となりますし――。
湿地に生えるネムリキノコはそのまま眠り罠として使え――。
あの赤い樹木にコブのように実っている星形の果実は、カヤクバコノミと呼ばれ、起爆装置の材料やダイナマイトに加工可能です――。頑張って集めてくださいね」
栗色の髪を赤いリボンで結んだ美しい担任教師、矢上遥花が一通りの解説を終えると……。
「うおお、おれのリーゼントが火を噴くぜ」
「勇者パーティのアルバイトで学んだ経験を生かすならこれか!」
リーゼントが雄々しい大柄な少年、林魚旋斧や、七三分けの神経質そうな少年、羅生正之らが、手袋をはめて鎌と籠を背負い、花や樹液、実の採取に向かい――。
「次に学んで欲しいのは農業です。地球産の葉野菜や根菜に似た食用植物が栽培可能です。地球と比べて、成長が一〇倍以上早いので注意してくださいね」
「わかりました。異界迷宮カクリヨ産の野菜を育てるなんて、ワクワクするな」
「出雲君、こっちの畑を一緒に耕しましょう」
出雲桃太は杭で区切られた農地へ、瓶底メガネをかけた少女、祖平遠亜や、天然パーマの小柄な少年、関中利夫らと共に踏み込んだ――。
「祖平さん、関中君、草抜きと耕作なら任せて欲しい。実家の手伝いで慣れているんだ」
「うん、知ってる。私も貴方の技を覚えたいの」
「なるほど……。〝英雄〟は、畑仕事でも英雄なんですね!」
桃太は万が一に備えて、〝生太刀・草薙〟こそ使わなかったものの、得意の衝撃操作を応用。
手で草をまとめて引っこ抜き、鍬を振るっては土を耕し、地球よりも大きく危険な虫もまとめて気絶させるなど、八面六臂の活躍を見せた。
「食糧確保という意味では、川を利用した漁業も見逃せません」
「サメっサメ。ごほん、川釣りなら紗雨にお任せだよ」
「建速さんって凄いのね!」
「むむむ、負けてはいられないぞ。しかし、勉強になる」
建速紗雨も竿から釣り具を投げて、大小様々な川魚を釣り上げ、男子女子の双方から黄色い歓声を浴びた。
とはいえ、ここは命の危険と隣り合わせの異界迷宮カクリヨだ。
「最後に、第六階層〝シャクヤクの諸島〟も、異界迷宮カクリヨを構成するダンジョンに変わりありません。島々の中央にある盆地と川辺はまだ安全ですが、周辺の森は動物型のモンスターが多数生息。また転移門のある環状列石付近の断崖も危険なので、近づかないようにしてください」
遥花の説明が終わる前に、林魚や羅生が向かった森の入り口か、空気を切り裂く鐘の音が響いた。
「巡回中の〝斥候〟二班が合図の銅鑼を鳴らした。敵襲だ!」
「なんて数だ、三〇匹はいるぞ」
〝シャクヤクの諸島〟は、非武装の冒険者達が集まることで、モンスター達にとっても都合の良いエサ場となるらしい。
角の生えた巨大ウサギやら、二足歩行の巨大シカやら、装甲めいた毛皮を持つハクビシンやらが大挙して押し寄せた。
「うわああっ、飛行モンスターが出たぞ!?」
「「GYAA!」」
そして、襲撃モンスターの中には槍のごとき長いくちばしと、七色に彩られた羽を持つ、大きな怪鳥が混じっていた。
「あれは、〝錐嘴鳥〟!? リウちゃんと出会った日に戦った〝式鬼〟の元になったモンスターか!?」
あとがき
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