第119話 二年一組の授業風景
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西暦二〇X二年四月一五日。
大騒動だった始業式の後、〝焔学園〟二年一組は、表向き平穏を取り戻していた。
額に十字傷を刻まれた少年、出雲桃太達は、異界迷宮カクリヨの探索に備え、毎日、筋トレやランニングなどの基礎訓練に励んでいた。
「一〇キロの長距離ランニングも、全体的にタイムが伸びていますね。身体作りは順調です。この調子であれば、近いうちに異界迷宮カクリヨへ入っても大丈夫でしょう」
担任教師の矢上遥花は、赤いリボンで結んだ栗色の髪を風になびかせながら、色とりどりのリボンで飾ったジャージ姿で運動場に立ち、タイマーを片手に朗らかな笑みを浮かべる。
「えっほ、えっほ。仕掛けるならここか?」
「おっと、出雲。そうはいかねえよ」
「この瞬間の為に、足を貯めてきたんだ」
桃太は一〇キロのランニングで先頭集団に食いこんでいたものの、最後の直線でリーゼントが雄々しい大柄な少年、林魚旋斧と、更にその前を行く天然パーマが目立つ小身痩躯の男子生徒、関中利雄に引き離された。
「くっそー、あとちょっとで林魚に勝てたのに。悔しいなあ」
「どうよ出雲。おれも〝戦士〟として、日々成長しているんだぜ!」
二位とはいえ、林魚はよっぽど嬉しかったのか、太陽を背に桃太に向けてピースサインを見せつける。
「一番は関中君か、凄いなあ。俺も負けてられないぞ!」
「へへ、ぼくも〝戦士〟ですからね。体力には自信があるんです。最初は伊吹サンに腹が立ちましたが、〝英雄〟出雲サンと肩を並べるんだ。いいとこ見せますよ!」
鬼の首魁、八岐大蛇の代理人たる女生徒、伊吹賈南が喝を入れたおかげだろうか?
あるいは、憧れの桃太と共に、矢上遥花の授業を受けることが叶うからか?
関中利雄ら、一般家庭出身の研修生グループはやる気に燃えて、毎日のトレーニングメニューに取り組んでいた。
「ちいい、四位だったか。ニセモノの英雄や、凡人どもに負けては八大勇者パーティの恥だぞ。父祖の顔に泥を塗らぬよう、おれ達も力を見せるんだ!」
「うっす。羅生さん、次の週こそ抜いてやりましょう」
その姿に刺激を受けたのか、七三分けで髪を固めた神経質そうな男子生徒、羅生正之とその取り巻きである八大勇者パーティゆかり達も奮起。
二年一組は真っ二つに別れていたものの、対抗心が良い方向に働いたか、五〇人いる研修生が日々いちじるしい成長を遂げていた。
「ひえーっ、ふう、みいふええ」
例外はただひとり――。
昆布のように艶のない黒髪が目立つ痩せっぽちの少女、伊吹賈南だろう。
彼女は銀髪碧眼の少女、建速紗雨と二人で、最後尾を走っていた。
「賈南ちゃん、もう少しでゴールだよ。一緒に頑張るサメエ」
「やめろ、サメ女。妾はひ弱なのだ。おい担任。どうにかしろ、妾は生まれてこのかた、箸より重いモノを持ったことがない。一〇キロものランニングなんて訓練メニューは非常識だろう?」
「大丈夫、伊吹さんはきっと鉄の金棒だって振り回せるパワーの持ち主です。先生も並走しましょう」
「ひょええっ。決めつけ良くない。オタスケー」
八岐大蛇の秘術で若返ったといえ、獅子央賈南、否、伊吹賈南にとっては久方ぶりの長距離走だ。
淫楽に耽り、怠けていた彼女にとって、冒険者育成学校のカリキュラムはことのほかこたえたらしい。
「こ、こんなことなら、妾もダンスゲームで鍛えておけば良かった!」
あとがき
★第二部に入り、新しいキャラクターも増えて来たため、明日の更新は登場人物紹介になります。
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