表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
120/789

第118話 彼と彼女の宣戦布告

118


「ああそうか、伊吹いぶき賈南かなん。貴方は俺達を知る為に、そして俺達に知ってもらう為に、焔学園二年一組へやって来たのか」


 桃太の絞り出した言葉は、はたして真実を射抜いていたのか?

 賈南は一瞬、泣くようにも笑うようにも見える、複雑な顔を浮かべた。


「アハハ! ……交渉の掛け金(チップ)を釣り上げるつもりが、まさか相互理解を望むとはな。出雲いずも桃太とうたにとって、太古の荒御魂あらみたまが託した〝かんなぎの力〟は添え物に過ぎず、その生き様こそ我ら八岐大蛇にとっての天敵ということか。だからこそ、妾は其方そなたのことを好いている」


 賈南は昆布のように艶のない黒髪をかきあげながら、ホオズキの如く赤々と光る瞳を細め、半月のカタチに唇をつりあげた。


出雲いずも桃太とうた建速たけはや紗雨さあめ、そして此処ここにはいないが、五馬いつまがい……。

 妾は其方達であれば見せてくれると期待している。

 人間の愚かさが招く、緋色の終末か?

 賢明なる意志が開く、白色の平穏か?

 どちらにも届かず、賭けが外れるならばそれも良い。

 三人まとめて食らうか、妾のバックダンサーにしてやろう」


 桃太は、紗雨は理解した。

 これは、賈南なりの宣戦布告なのだ。

 八岐大蛇やまたのおろちに対する真の戦いはここから始まる、と。


「だったら、賈南さんに見せてやる。俺は戦うことになっても、何もかも滅ぼすだけじゃない答えを探してみせる。貴方との折り合い、落とし所を探してみせる」

「その回答こそ、我らが天敵に相応しい。此度こたびの演目も、其方が生き延びられることを祈っているよ」


 賈南は満足げに笑い、パチンと指を鳴らす。

 次の瞬間、灰色の世界は終わり、三人は喧騒に満ちた二年一組の教室へと戻った。

 賈南が最初に告げたように、時間がいじられているのだろう。

 特別な〝時空結界〟が展開されてから、一秒も経っていないようだ。


「出雲さん。その生徒は、知り合いですか?」


 桃太は、ジャージを着た天然パーマのクラスメイトに問われ、教室中から詰め寄った生徒たちを前に堂々と宣言した。


「そうだ。彼女に危害を加えると言うなら、俺が止める」

 

 背後で紗雨がヤレヤレと手首を振り、賈南がニヤニヤとほくそ笑んでいるのはわかったが、これが桃太の戦い方なのだ。


「ぼくは、関中せきなか利雄としおと言います。出雲サン、やはり貴方は英雄だ。熱くなってすみませんでした」


 八大勇者パーティに反感をもつグループは、元より桃太と構えるつもりはないらしい。詫びるように会釈して、自分の席へと戻っていった。


「ふん、元劣等生が強がってみせる」


 その一方で、七三分けの髪に細フレームの眼鏡をかけたリーダー格の男子生徒を含め、八大勇者パーティゆかりの研修生達は敵意に満ちていた。


「おれは六辻ろくつじ家に縁のある、羅生らしょう正之まさゆきだ。出雲よ、おれ達のグループはお前を英雄だなんて決して認めん」


 されど、いきなり殴りかかるほどには、〝鬼の力〟に蝕まれてはいなかったらしい。羅生というリーダー格の生徒に導かれ、彼らも矛を収めた。


「いよお、二人とも怪我はなさそうだな」

「雰囲気が変だけど、無事だった?」


 やがて、リーゼントが目立つ学ラン姿の林魚はやしうお旋斧せんぶと、白衣を着て瓶底メガネをかけた祖平そひら遠亜とあが教室に入り――。


静粛せいしゅくに。これよりホームルームを始めます」


 最後に、赤いリボンで栗色の長髪をまとめた、担任の矢上やがみ遥花はるかが教壇に立つ。

 こうして、桃太と紗雨の波瀾万丈はらんばんじょうな、学生生活が始まった。

あとがき

お読みいただきありがとうございました。

ブックマークや励ましのコメント、お星様、いいねボタンなど、お気軽にいただけると幸いです(⌒▽⌒)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 賈南には終末だけでなく、平穏の道筋も見えているのでしょうか? 彼女はどちらも選べる状況にあるとも取れますが……。 今後の行動が楽しみです(^▽^) このクラス、視ている分には良いですが、絶…
[一言] >出雲桃太にとって、太古の荒御魂が託した〝巫の力〟は添え物に過ぎず、その生き様こそ我ら八岐大蛇にとっての天敵ということか。だからこそ、妾は其方そなたのことを好いている ファブニル「うんうん、…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ