表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/789

第11話 カクリヨをゆく師弟

11


 西暦二〇X一年、一一月九日。

 出雲いずも桃太とうたは、高熱に苦しむ矢守やがみ遥花はるかを抱いて河原を移動中……。

 川の向こう岸にある、ひび割れた勾玉と赤茶けた短剣の上で、空飛ぶサメと黄金のヘビが踊る光景を見て、驚きの声をあげてしまった。


「GUOO!」「GAAA!」「SHUU!」


 額に十字傷を刻まれた少年の声は、異界の最下層にむ怪物達の注目を集めるに十分だったのだろう。

 オオカミに似た体毛と尻尾を生やすトカゲや、ヤドカリめいた巻き貝を背負うカエル、角が生えた大きなイモムシが突撃してきた。


「う、うわああ。まずいっ」


 桃太は遥花の柔らかな身体を抱きしめたまま、必死で石を跳ね飛ばして駆けた。

 不意にダン! ダ、ダン!という発砲音が三連続で響く。

 遥花が跳ねた小石を拾って弾丸に用い、〝夜叉やしゃ羽衣はごろも〟こと、赤いリボンをマスケット銃代わりに使って、桃太の肩越しに射出したらしい。


「GUOO!」「GAAA!」「SHUU!」


 石弾は、オオカミトカゲの尻尾を潰すも再生され、ヤドカリカエルの大巻貝を穿うがつには至らず、イモムシは柔らかな表皮で逸らしてしまう。

 三体の怪物は、威嚇射撃を受けて一瞬だけひるんだものの、すぐに追跡を再開した。


「出雲君、アレらは魍魎もうりょう。山川よりいずる、魔性の獣精じゅうせいよ。貴方ではまだ勝てない。わたしを捨てて逃げなさい」

「いやです!」


 桃太は首を横に振ったものの、春花の熱はいやまして、右足の銃創からは赤い霧と黒い雪のような何かが溢れ出ていた。


「このままじゃ追いつかれるわ。自分でもわかるの、傷口に毒が入ったみたい。わたしは、もう長くない」

「絶対に嫌です!」


 桃太は叫ぶなり、遥花を更に固く抱き寄せて速度をあげた。


「GUOO!」


 されど、人間がヒトならざる化物オニ追いかけっこ(おにごっこ)で勝てるはずもない。

 オオカミトカゲは歓喜の雄叫びをあげながら、桃太の背を鋭い爪で引き裂いた。


「リッキーが、命をかけてくれたんだっ」


 桃太は痛みをこらえ、振り向きざまにトカゲの柔らかな腹を蹴り、ふさふさの尻尾を踏み千切って突破する。


「GYAINッ」

「GAAA!」


 更に先回りしたヤドカリカエルが口を大きく開けて、酸のような液体を吐き出すも――。


「こんなところで諦めてたまるかよっ」


 桃太は、切れたトカゲの尻尾をカエルの口内に蹴り入れ、巻き貝との境目にある脳天へかかと落としを叩き込んだ。


「GYABUUッ」

「SHUU!」


 更にイモムシが角を突き出して飛び掛かってきたが――。


「俺は先生を守る。二人で必ず地上に戻るんだ!」


 桃太は横っ飛びに避けることで、カエルがこぼしたよだれ、酸の水溜まりへと突っ込ませて動きを止めた。


「BUOOOッ」

「先生、リボンを借ります。お前たちなんかに負けてたまるかあ!」


 桃太は遥花が握る赤いリボンを伸ばして三体の怪物を巻き取るや、地下川の中へと投げ込んだ。


「GUOO!」「GAAA!」「SHUU!」


 水流は見た目よりも速いようで、三匹の魍魎は悲鳴をあげながら濁流に飲まれて消えていった。

 二人をとりまく赤い瞳と獣の気配はまだまだいるものの、当面の危機はなんとか乗り越えたようだ。


「矢上先生、やりましたよ!」


 桃太は得意満面で、腕の中の遥花に呼びかけた。しかし。


「いずもくん。にげて、わたしを、ころして」

「え、あ、ぐああっ」


 桃太は、予想もしなかった攻撃を受けて悶絶した。

 彼を先程助けてくれた、否、幾度となく命を救ってくれた……。

 遥花の手の中にある赤いリボン、〝夜叉やしゃ羽衣はごろも〟が、コブラの如き大型蛇に変化して、桃太の首すじに牙を突き立てていたからだ。

あとがき

お読みいただきありがとうございました。

応援や励ましのコメント、お星様、いいねボタンなど、お気軽にいただけると幸いです(⌒▽⌒)


連載開始記念として、本日も五話、更新いたします。

是非お楽しみください。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ