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第109話 陰謀は闇の中で育まれる

109

 西暦二〇X二年、四月一日の夜。

 出雲いずも桃太とうたくれ陸羽りくうが式鬼を浄化し、四鳴しめい啓介けいすけが酒宴に興じていた頃――。

 東京湾内部に造成された人工島〝楽陽区〟の繁華街から西の連絡橋を通り、神奈川県に向かって走り去る、黒い大型高級車があった。


「くそ、〝八足虎はっそくこ〟も〝錐嘴鳥しすいちょう〟も、捕まえるのに苦労したのに! せっかく用意した〝式鬼しきおに〟が全滅じゃないか。よくも危険な目に遭わせてくれたな? 僕は名門〝奥羽おうう家〟の一員なのに、どうして鉄砲玉みたいな真似をしなきゃならないんだ」


 大型リムジンのハンドルを握るキツネ顔のチンピラ男は、いらだたしげにアクセルを踏み、前方の車にギリギリまで接近して煽りつつ自らの境遇を嘆いた。


「黙れ、離岸りがん亜大あだい。若い頃から万引きや恐喝を繰り返した小悪党め。世間知らずの箱入り娘を騙して奥羽家に婿入りしようとも、そんな馬の骨をいったい誰が信用するものか。〝C・H・Oサイバー・ヒーロー・オーガニゼーション〟の鷹舟たかふねや、心の広いワタクシだからこそ使ってやっているんだ。犬なら犬らしく、拾われた恩を返すために働け」


 後部座席に座ったやたら濃い柑橘系の香水をつけた恰幅の良い女は、アルコール度数の高い蒸留酒を手酌で何杯も重ねながら、〝式鬼〟の使役者だった勇者パーティ〝C・H・O〟からの投降者をあざ笑う。


朱蘭しゅらん様、そうは言うがよ。最初はそのナマズひげ女の為に、〝鋼鉄鬼ギガース〟の新入りをサンプルとして回収するって話だったじゃないか。なんであの、出雲いずも桃太とうたと戦う羽目になってるんだ。そういうのは、そこのガラクタの役割だろう!」


 亜大は、煽り運転に耐えきれずに左折した車をバックミラーで見送りながら、車内の光景を一べつした。

 彼の雇い主たる一葉いちは朱蘭しゅらんの隣には、ナマズ髭付きの鼻眼鏡をつけた作務衣の女と、傷だらけの鎧を着込んだ、大柄な黒騎士が鎮座ちんざしていた。


「この子はまだ実験段階でね、実戦に出るにはまだまだ調整が必要なのサ。そもそも〝時空結界〟に出雲クンを巻き込んだのは、そちらの不手際じゃないかネ?」


 オウモ、今は、寿ことぶきちんを名乗る女性は、悪びれずにそう言い切った。


「キハハ、時空結界には対象に近い相手なら、問答無用で巻き込む欠点があるからね。それで寿博士。実際に戦闘を見て、どうだった?」

「ン。四鳴しめい家に研究所の情報を盗まれた時はどうなるかと思ったケド、アレではデッドコピーだね。リウという娘を引き入れられなかったのは残念だが、白い蒸気鎧は恐るるに足りない。製作依頼を受けた〝式鬼〟用の装甲の敵じゃあないネ!」


 ナマズ髭を揺らす作務衣さむえ女性の反応に、酒で上気した赤ら顔の女はゲラゲラと上機嫌で笑う。


「キハハハ。そうだろうそうだろう。四鳴家など、図体が大きいばかりのハリボテさ。啓介は馬鹿のボンボンだし、遠縁の四鳴しめい葛与かつよ以外にはまともな前線指揮官もいやしない」


 朱蘭はひとしきり笑った後、酒の入ったグラスを見て、満足そうに微笑んだ。


「今回の件は、大局的にはうまくいったよ。出雲というガキは無駄に頭が回るから、〝式鬼〟と交戦したことで、一葉と四鳴のスキマ風にも気づくはずさ。だから、ワタクシと甥っ子が一時とはいえ、まさか組んでいるとは思うまいよ」

「アンタら、本当に性格が悪いな」


 亜大はハンドルを握りながら、寒気で身震いした。


「……人が良いだけでは、我が愛しき父の二の舞になる。冒険者組合を支配するのはワタクシだ。その為には忌まわしい甥以上に、鷹舟を殺した出雲桃太という成り上がり者が邪魔だ」


 朱蘭は、リムジンが橋を渡り終える前に、楽陽区にある冒険者組合本部と、獅子央家の私邸を振り返った。

 タイミング悪く厚い雲がかかり、細い三日月が消えて真っ暗になる。


「亜大、一葉家に拾われた幸運を喜べよ。結界術を使い、既に〝楽陽らくよう区〟の発電所や浄水場などの主要施設には、起爆装置を設置済みよ。加えて日本最強級の〝鬼神具きしんぐ〟である〝酒呑童子しゅてんどうじの鉄棒〟を使うワタクシと、〝茨木童子いばらぎどうじの腕〟を受け継いだ黒騎士という切り札がある以上、コチラの勝ちは決まっている。冒険者組合本部と獅子央の館を手に入れ、志半ばで死んだ鷹舟と、父、あきらの無念を晴らすのだ。我らの革命を邪魔するものは、皆ことごとく死ね!」

「その意気だ。頑張ってくれたまえよ朱蘭様。孝恵たかよし代表も、頼れる親戚の活躍を喜んでいることだろうさ」

あとがき

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― 新着の感想 ―
[一言] 四鳴啓介とは手を組んでいるのですか。 しかし、なんか既に爆弾が設置済みって言っていますね(°°;) こいつらも革命とか言ってますし、まともな手段で冒険者組合の長になろうとする奴はいないのでし…
[一言] なんというか、カンガルー2匹が殴り合ってるAA(台詞付)で張りたくなりました
[良い点]  こんばんは、上野文様。  これは、一時的とはいえ敵同士な四鳴啓介と一葉朱蘭が手を組んでいるとは想定外。  冒険者組合の頂点を取ったら最終的に桃太を亡き者にしようとが策している模様。  …
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